Cultre Power
artist 都築響一/Tsuduki Kyoichi
contents

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Copyright © Aomi Okabe and all the Participants
© Musashino Art University, Department of Arts Policy and Management
ALL RIGHTS RESERVED.
©岡部あおみ & インタヴュー参加者
©武蔵野美術大学芸術文化学科
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インタヴュー

都築響一氏×岡部あおみ

学生:芦立さやか、足立圭、池内麗佳、小黒加奈子、高木嘉代、高橋僚佑、中村美久、直塚郁
日時:2003年11月26日
場所:麹町の都築響一オフィス

01 アートではなく報道

岡部あおみ:都築さんの『鳥羽国際秘宝館(珍日本紀行)』(1996)の過激なインスタレーション作品を横浜トリエンナーレで見せていただきました。

都築響一:そうですか(笑)特殊なものを。

岡部:もちろん『珍日本紀行』の本でも写真として見ていましたが、実際にこれまで「秘宝館」に入ったことなかったので、いろいろな意味でおもしろかった。最近は東京の普通の人々の暮らしを10年前にドキュメントした『TOKYO STYLE』が英語で出版になり、海外でも評判になってますから、アメリカなど外国での仕事も増えてますか?

都築:いや日本であまり「仕事」がないだけですよ。僕の場合は展覧会もあるけれど、展覧会は外国のギャラリーや美術館の方が多い。日本では逆に日本の美術館があまり相手にしてくれない、声がかからないだけですね。ただ本業は編集者ですからその発表の媒体は国内が多いです。

岡部:『SPA!』などで連載なさっていたのを中心にまとめたわけですからね。

都築:『珍日本紀行』がそうですね。他のは他の雑誌とか、もともと本の為に作ったものもけっこうあります。今でも雑誌の編集の仕事の方が多くて、雑誌の編集、雑誌に連載の記事を作るのが一番中心。だから、展覧会は僕にとって、別にキレイな写真のプリントを見てくれとかそういう事ではない。アート作品ではなく、報道。自分の作品を見せるのではなく、何が写ってるかを見てくれって事ですね。

岡部:2002年には、都市をテーマにしたブラジルのサンパウロビエンナーレでも、都築さんの巨大なインスタレーション『賃貸宇宙』(2001年)を見ました。中に入ってコンピュータでいろいろ映像を検索できるハイテク・インスタレーションですが、イメージは報道でもプレゼンなどの仕組みを含めるとアートだと思います。

都築:そうですか?美術館でやるとアートに見えちゃうと思うけれども、僕の場合はそれを一番良く見てもらう方法、うまく見えるようにするにはどうしたらいいのかを考えて、いろんな場所に応じていろんな方法をとっているだけですけどね。だから自分としては、例えば戦争写真展とかと一緒の気分ですね。

岡部:サンパウロの装置は操作がやや難しかったと思しましたけど、どうですか?

都築:コンピュータに慣れてる人と慣れてない人がいますから、慣れてる人はすぐわかって、わからない人はなかなか難しいですけれど。同じ物を先月までオーストリアでやってました。巡回ではないのですが、新しい美術館がグラーツにできて、偶然やって欲しいといわれてやったんです。

都築響一 photo Aomi Okabe

02 インターネット・ミュージアムにはケチル エロサイトのみ成立

岡部:webサイト上で、束芋さんなども参加した、インターネットミュージアム、現代美術館『Internet Museum of Art』を主宰なさってましたね。

都築:もう終わって、今は小休止という感じですけど。

岡部:束芋さんと話をしていて話題になったのですが、1件につき3日間見られるけど300円と有料だったせいでみんなあまり見てくれなかったと言ってました。

都築:そうですよ、300円をケチるやつが多いという....みんな友達も見てくれない。インターネットはタダだと思ってるのは良くないですね。

岡部:期待されたようには、みんな見てくれなかったのですか?

都築:はるかに以下ですね。もう怒り爆発という感じ。みんなケチで、アートはタダだと思ってるし、見てくれるようなひとは若い子が多いんですけれども、今なかなかクレジットカードが取れない。10年くらい前はもうメチャメチャ配ってたみたいだけど、今は審査が厳しいらしく、見たいけどクレジットカードが取れない人がいる。ただ、全世界に向けて見せたいので、そうするとクレジットカードでしかお金の貰いようがないんですよ。日本だけだったらコンビ二とかいろいろやりかたあるんですけど。それから、ハイスピードじゃないとダメで、会社や大学ではハイスピード回線がはいっていても、家には携帯しかないとかね、モデムでピーピーやってるやつがまだ意外と多かった。そうすると遅くて使い物にならないし、逆に言えば、大学や会社でいかにみんなそれを私用で使ってるかということです。逆にそういう大きなシステムだと自分のクレジットカードをいれて買い物が出来ない事も多いので、そういう予想外の問題がいろいろでてきましたが、でもまた来年から再開したいと思って、人数も増やしてどんどんやっていきたいです。みなさんにどれだけお金を払って頂けるかというところが問題。

岡部:安いですよ。

都築:それをケチるって・・・払ってくれました?

岡部:もちろん(笑)三日間いくらでもみれるという。あれ見てから東京オペラシティの束芋さんの展覧会に行ったので、会場ではインスタレーションになっていましたが、操作もしやすくてわかりやすかったです。

都築:そうですよ。1000円払ってくれたら、一カ月、見放題なのに。いい入門になると思うんですけど。

岡部:都築さんのプロデュースですよね。企業メセナはどこでした?

都築:えぇ僕が館長で、メセナはほとんどなく、資生堂が少し援助してくれましたけど、ソネットというプロバイダーがやるということで、ソネットが作ってくれたんですよ。

岡部:webデザイン以外の費用は都築さんが出されたのですか?

都築:いやいやソネットがまず負担。作家にお金あげてるんですよちゃんと。だからそれを入場料で取り戻して、黒字にしようと思ったのに、超赤字で終わってソネットも怒ってましたね。だってすごいですよ。例えば束芋の作品、もし外部の制作会社に作らせたら1000万単位ですよ。それをタダで作ってあげて、しかもギャラまで払ってあげて。みんなアート好きだから儲かるだろうと思ったらとんでもなかった。

岡部:インターネットの世界ではアートの有料展示はうまくいかないと思われましたか?

都築:要するに今いろんなところが有料サイト作ってますが、全部失敗してます。ニューヨークタイムスとかも、有料サイトだった情報提供をもう無料にしてます。うまくいってるのはエロだけで、あと全部失敗してます。エロサイトはみんな決死の覚悟でクレジットカード番号とか出してる。だからまだまだ意識は低くて、アートはエロに負けてるってことですよ。

03 ギャラリーだと「秘宝館」にも長蛇の列

岡部:閉館していた鳥羽のSF秘宝館を買われたんですね。全作品ですか?

都築:そうです。人が来なくて閉館してた。あまりにももったいないので、譲っていただいたのですが、当然アートだと思ってない訳だから、みんなバカにしてるからでしょう。

岡部:でも行く人はべつにアートだと思って行くわけではないのではないですか?

都築:そうですね、デートで行ったりしてますけど。だけどそれを横浜トリエンナーレみたいな場に移せばみんなアートだと思って並んでくれるわけです。でも鳥羽の商店街にあると、エロだと思われて誰も行かない。20年やってても観光地図にさえ載せてもらえない。駅前観光ガイドとかで聞いても教えてくれない。そういう冷たい扱いがあるわけですよ。だけど場所を変えれば変わる。だから美術かどうかはどの場所に置かれるかがすごい大きいよね。

岡部:ええ、この件に関してはとくに。恵比寿でも2002年に「えびす秘宝館」という個展なさって、あれも主宰者から長蛇の列だったと伺いました。

都築:あれもすごく入ってくれた。ギャラリーでしたから。大学生も、お休みになればパリだニューヨークだって行くけど、三重とかには行かないわけでしょ?三重のほうが近いのに。言葉も通じるのに。

岡部:たしかに学生の海外旅行が増えてますが、三重に行かなくても、「秘宝館」という類の展示会場は日本なら地方に旅行に行くと意外にあちらこちらにありますよね。

都築:そう、自分の近くにすごくいろいろあるんですが、遠くにみんな見つけようとする。遠くに行く事で達成感があるから。お金使ったとか、苦労したとか、やったっていう気持になる。でも違うんだよね。

岡部:「秘宝館」にしぼると、東京にはあまりなくて、東京にないから横浜や恵比寿にみんな行くのかなと思ったんですけど。

都築:「秘宝館」はともかくとして、ああゆう感じの面白いものは東京にも沢山あるわけですよ。ただ自分の身近には行かない、気にしてないだけです。だから本もわざと東京だけは出さなかった。だって三重の本とかはあまりないじゃないですか。だから東京だけは意識的に外してるんです。つまり自分の近くは一番見ないってことです。

岡部:ギャラリーや美術展でやると、エロだから見たら恥ずかしいという自己規制ははずれますよね。

都築:あとはみんな知らないんでしょうね秘宝館。メディアが取り上げないし紹介しようともしないから。しかもみんな自分の国の物をなめてるって事。外国の物だと今だに良しとしてるという側面もありますよね。

岡部:2001年に横浜トリエンナーレに出品なさったのが、ご自分のコレクションという形で公開した初めての機会ですか?

都築:そうですね。コレクションというか、館がつぶれちゃうのであまりにもったいなくて、とって来ましょうよという話になって、譲ってもらった。でも本当は、族博物館や三重県立美術館が買わなきゃダメですよ。くだらない印象派の絵とか買ってないで。そうしないから仕方なく僕が自費で預かった。そのために倉庫まで借りて大変です。美大とかで買って欲しいよ。

岡部:あの、もし買うとしたらおいくらでしょうか?

都築:いやもうすごく安いもんですよ。ベンツ一台くらいです。だけど3000万円の車は買う人けっこういる。一億の家も安いといって買う人いるわけ。一億あったら日本全国の秘宝館すべて買えると思いますよ。だけど買う人はいない。車買う人はいても、美術にお金出す人はいないということですね。

04 アーティストにはギャラがない

岡部:横浜トリエンナーレでは、アートディレクターのひとりだったCCA北九州の中村信夫さんに相談して、お二人で出すことに決定なさったのですか?

都築:いやいや僕が決めたんですよ。中村君は、お願いだからどうしてもやめてくれって言ってましたよ。子供も来るし、皇室も来るからって。公の大きな展覧会だから、エロと政治は持ち込まないでくれって言われて、それはすごくおかしいと思いましたね。

岡部:では作家のほうからのわりとごり押しだったのですか?

都築:いや、中村さんのほうで作家を選んだんだしって、ギャーギャー喧嘩してるうちに、時間切れになった。しょうがないからやっていいけど、そのかわり一番端に追いやられて絶対中が見えない様にカーテンをしてくれって。だからやむおえず時間切れでやらせてもらえたという感じです。

岡部:そうですか。でも目玉作品のひとつになりましたよね。

都築:だけど一言もねぎらいの言葉は国際交流基金からはなかったです。終わった瞬間に、早く撤去してください言われただけです。展覧会全体だけど、かなり浜トリには人が入ったのに、アーティストに全く一銭の還元もなかった。おかしいよね、あのお金はどこに行ったのか。アートはカッコイイみたいだけど、お金を巡る状況はすごく複雑、日本の現代美術が一番遅れてるし汚い部分ですね。要するにカッコイイ美術館は沢山あるけど、前近代的システムがまかり通っているので、その辺をチェックしてもらわないと、表面的にカッコイイだけになってしまう。僕も要するにずっと美術畑じゃないし、偶然展覧会をやりませんかと誘われて入ったので外部の人間なわけです。それで、そういうシステムの矛盾が見える。昔から美術の中で育ってきている人だとそれが普通だと思ってしまうでしょ。例えば僕が美術館で展覧会やっても、日本の美術館は普通ギャラがない。例えば僕が原稿書いたら、原稿料が貰える。美術館は制作費は出す。制作費は例えば原稿を書く事でいえば、プリンターの紙代とか原稿用紙代とかですよ。経費は出すのでそれを余らせてギャラにしろって話なら、そんなの余るわけがない。ギャラなしでやるわけですよ。だけど人に何かをつくってもらうときには、お金が発生する。美術だけはなぜだか発生しないんだよね。

岡部:日本の公立美術館は作家へのギャラは出せない規約になっているところが多いですが、海外の美術館だと安くても一応は出しますよね。

都築:出しますよ。だって入場料はどこいっちゃうのという話ですよ。入場料は別の経理の操作になるから、お役人とかの宴会代とか、でかい建物のメンテナンス代になってしまう。例えば1000人来ると思ってたところに一万人のお客さんが来たら、当初の予定より沢山入場料が入ってくるわけでしょ?でもそれはアーティストには行かない。例えば僕がフリーで、本を作って沢山売れたら沢山印税入ってくる。ちょっとしか売れなかったら全然入ってこない。でも美術館のキュレーターは、一カ月の展覧会で5人しか入場者いなくても5万人来ても給料は一緒。完全にお役人体質で切実感がまったくないよね。一方アーティストは出すだけ出して買い上げもしてくれない。そうすると新作を作って展覧会が終わったらドカンと返される。倉庫代を払うことになるんだから、やればやる程損をする。それはすごくおかしいし、失礼でしょう。昔はどうしてそれが成り立ったかというと、美術館に出すことで箔がついて、自分の絵の値段が高くなった。だから美術館は出してやる、見せてやるという態度だったわけですよ。だけど今はもう通用しない。そうやってアーティストに負担をかけることで、アーティストの一方的なボランティアで、現代美術館のほとんどが成立しているという事ですよね。だからそういう裏側のしくみを理解してこの業界に入ってこないと、すごくガッカリするよね。働き始めてからね。

05 取材はいつも一人旅

岡部:都築さんはこのスタジオにもアウロサイダーアートのようなオブジェ、やなぎみわさんの写真などもありますが、現代アートのコレクションもしていらっしゃるのですか?

都築:いやいやそんなことないですよ。無理矢理買わされたり、友達だから買わされたりとか、仕事でいろんな所に行った時に、おもしろいから買ったりとか。あとは編集したりして本を作るので、その時にまず自分で買ってしまったり。普通は本の企画を立ち上げて、予算組みが決まると借りにいったりするんだけど、そうゆうことやってる時点でエネルギーがなくなってしまうので、まず自分で買ってみる。身銭出してもやりたいかどうかが僕にとっては判断基準なので、まず細かい品物とかですけどが買う。つまり本をつくるという場合、その対象に一銭もお金を出したくないというくらいなら、あまり作りたくないってこと。踏み絵みたいなもんでもあるわけですね。

岡部:ご著書の 『TOKYO STYLE』や『珍日本紀行』はどのくらい売れたのですか?

都築:『TOKYO STYLE』は売れないだろうと言われてたんですけど、以外とよく売れた。大小のサイズがありますが、大きな本で2〜3万部は売れたらしい。文庫版はまだまだ沢山売れてますけれど、出版社が倒産。だからギャラは一銭も払われず。

岡部:えーそれはひどい。『珍日本紀行』の文庫版は大丈夫ですね。

都築:会社がまだあるので大丈夫ですけど、大変なことは大変。例えば『珍日本紀行』は雑誌の連載があったからできる仕事ですよ。自分だけで動いてできるものとは違う。

岡部:取材にはいつも一人で行かれるんですか?

都築:そうですよ、絶対一人ですよ。アシスタントもなしでカメラも全部自分で。コーディネーターとかリサーチは絶対使いません。そうしないとおもしろくないし。

岡部:海外取材もあるわけですから、語学力は問題ないということですね。

都築:英語ぐらいしか出来ないですけど、それで出来るものでやるっていうことです。プロの人達を使うと、その人達が知ってることしかできなくなるからおもしろくない。失敗はないけど。

06 エロは世界一クリエイティヴ

岡部:『珍日本紀行』を見ますと、日本の神社などで奉られている陰陽の「陽物」とかも登場しますが、いわゆる豊穣の象徴として昔からあるものですよね。

都築:昔からありますよ。一番わかりやすいアートとも言えるもので、女の人はみんなお参りにいきますね。

岡部:日本の場合、豊饒の記号でもあるけれど、エロスの表象でもあるものが、ある意味非常に視覚的で大衆的に存在しますが、海外だとキリスト教のタブーのせいもあり、そんなにない。日本の場合はすごくあからさまで、エロスのビジュアル化はとても日本的ではないですか。

都築:今、『ロードサイドヨーロッパ』という本を作ってまして、ヨーロッパのお笑い名所とかで2004年の春に出る「珍世界紀行ヨーロッパ編」ですが、たしかにエロは少ないです。そのかわり気持ちが悪い物が多い。人体の瓶詰めとか、剥製、血なまぐさいものがある。センスが違いますよね。でもエロは日本が世界一でしょうね。

岡部:そうかもしれませんね。どうしてでしょう?

都築:エロに関しては世界一クリエイティヴ。僕が思うに民族はそれぞれ得意分野があって、中国人はご飯作らせたら世界一とか、イタリア人は車のデザイン世界一とか、日本はやっぱりエロスでしょ。この前までロンドンで、イメクラのインテリアという展覧会をやってたんですけれど、ヨーロッパの人は呆然としています。何コレみたいな。もろコンセプチュアルアートみたいなものですからね。しかも展覧会みたいにやればすごいカッコイイアートに見える。パリではラブホテルの展覧会をやったのですが、信じられないという感覚がすごくありましたが、みんな見にくるし、日本に来る建築家とかが一番見たがる建築はやっぱりラブホテルですよ。ラブホテル専門の建築設計事務所とか、カリスマ建築家、ラブホ専門の家具デザインの会社とかあって、とてもおもしろいんだけど、建築・インテリア雑誌では絶対取り上げてくれない。完全無視。でもはるかに僕達の生活に身近なものでしょ?僕はこれから死ぬまで安藤忠雄さんデザインの家には住めないと思うけど、ラブホは行くもんねぇ。どっちがみんなにとって身近かって事。身近な物はかっこ悪いと思ってしまう。手に届かない物をやっていれば安全だから。

岡部:それと、基本的にエロティックな美術や伝統や歴史があるのだけれど、西洋的な文化やモダニズムの導入もあって、ある時期から管理されてきたり、自分自身がまた倫理的に見えない部分へと自己管理するようになってしまったせいではないかと思うんですけど。

都築:だけど結局ラブホテルに関しても何でも、外人が評価するから日本人が喜ぶわけでしょ?これは浮世絵の時代から変わってないわけですよ。みんなちり紙がわりに捨ててた浮世絵を外人が拾って、持って帰ってびっくり。それを逆輸入する。200年前の世界とメンタリティ変わってないということですよね。

岡部:ただ立場を逆に考えると、日本のすべてが、いつでも外国人にとっては何のリスクもなく評価出来る遠い遠い世界なんですよね。

07 貧乏人のTOKYO STYLEは不変

都築:僕達にとって一番面白い事は何かというと、リスクを負って何かを探すこと。人がもう褒めてるものを褒めてもしょうがない。だけど、面白いか面白くないのかわかんないけど忘れられないものとかね、そういうものを評価するのが、一番おもしろいよね。だって紅葉の見える露天風呂とかやっても、もうみんな行ってるわけですよ。100冊すでにガイドブックが出てる露天風呂の本をつくっても面白くないわけですよ。自分がやる必要はない。でも、紅葉の近くにある「秘宝館」だったらだれもやってない。人生の大事な時間を使ってやるわけだからね。仕事には究極的には、僕が思うに2種類しかないです。つまんないけどお金沢山貰えて、それをガンとやって余った時間に好きな事をやる。それか、おもしろいけど儲かんないというのかどっちかしかない。おもしろくて儲かるのは、ありえないと思っていれば気が楽。
本作りは基本的に絶対に儲からない。とにかく時給にしたらマックのバイトの方が全然いいぐらいですから。でもやってるのは、面白いからです。

学生:先ほど、アートはおかれる場所によって意味などが変わってくるとおしゃいましたが…

都築:本当は変わらないのだけど、場所がかわると観客が違う目で見るということだよね。「秘宝館」は「秘宝館」でただのエロ・オブジェなのにみんな違う目で見る。例えば、美術館にあるとみんな「ふーん」という感じで、鳥羽にあると「ぎゃー」って笑う。『TOKYO STYLE』だって、みんなが普通に住んでる、どうでもいい部屋。だけど、それが写真にとられて、印刷されて大きいページに掲載されると、「ここには、何かある」とみんな思う。ただの、汚い部屋には見てはいけないという先入観が働く。それがメディアのおもしろいところだよね。

岡部:それに、都築さんが取り上げたという点もある。つまりこれまでお話を聞いてきてより明確になったけれど、都築さんのユニークな価値観で評価されたという点。たとえば、ここにいる学生のみんなが取り上げたって問題にされるかどうかはわからない。

都築:いや、でも誰がどういうところに置くかにもよる。例えば、美術館の展覧会で石が置いてあると、作品名とか、外国人の名前とか書いてあると、たんなる「石じゃん」とはいえないわけだから。場所も名前もなかったら、ただの石だけど、それが、美術やメディアのおもしろいところでもある。でも、「石じゃん」と思う気持ちも大事。そうでないとすべて場所と名前に左右されるわけだから。

岡部:『TOKYO STYLE』は10年くらい前のものですよね?21世紀になって撮ったら、多少違うものになりませんか?

都築:2001年に『TOKYO STYLE』の続編ともいえる『賃貸宇宙』という第二弾をだしたのですが、ほとんど変わりませんでした。

岡部:変わりませんか(笑)。変わったのではと思って、第二弾を計画なさったのでしょうに。

都築:変わったことは確かにあるけど、例えばテレビではなくてパソコンがみんなあるとか。携帯電話みんなもってるとか。ディティールは変わったけど。この二つの期間に何があったかというと、バブルの崩壊。でも貧乏人の生活はたいして変わってないんだよね。金持ちには大きな変化があっただろうけど、もともと家賃三万の部屋に住んでるようなやつには変わり様がない、大差ない。以外と貧乏人のほうがしぶとい。ただ、みんな引越しだけはしている。

岡部:都築さんも引越し魔だそうで。

都築: 好きですよ、すごく。東京だけではなく、京都にも住んだことありますし2、3年で変わるのが好きですね。今は中野に小さいアパート借りてるんです。絶対に更新しないという物件をセカンドルームのつもりで借りるのが、好きですね。

岡部:あちらこちらお住みになってこの場所が好きというのは、ないのですか?

都築:住んだことがないところは、どこも面白いとおもうんですが、あと選ぶ基準は若い人が多い場所。安いところがたくさんあるし、夜中までやってる飲み屋もある。中央線沿線とかわりとよく引越しして住んでますが、本当はどこでもおもしろいけど、ただ2年くらい住んでると、その町のことわかるからね。

08 メメント・森ビルのコミッションワーク

岡部:話は変わりますが、森美術館開館記念の「ハッピネス」展で辛酸なめ子さんと一緒に漫画みたいな作品を提案したけれど、却下されたという話を耳にしたのですが、それはどういう理由で?

都築:あれは展示ではなくてコミッションワーク(依頼制作)として仕事が僕にきて、展覧会の会場ではなく、カタログの中に16ページ空けるから、そこに作品という感じで発表してほしいと。カタログも会場のひとつだと考えてやってくれと。先方がほしがっていたのは、変わった東京の写真だったと思うんですけど、基本的には何をやってもいいというコミッションワークですから、昔よくやっていた写真にふきだしがはいっている写真漫画を、若手の漫画家で一番おもしろいとおもう作家とつくろうと思った。美術館側もそれはおもしろいじゃないですか、というのでそのページをなめ子先生と作ったんですが、見せたら、こんなネガティブなものはだせませんと断られた。コミッションワークだけど、美術館にも断る権利はあるという結果になった。

岡部:それはデイヴィッド・エリオット館長の判断ですか?

都築:そう。だったらほかで出すからいーよ、その代わり、聞かなかったみたいに言うなよって話になって『SPA!』に短期連載みたいな形にしたんです。

岡部:どこがネガティブだと思われたのでしょう?

都築:なめ子先生がストーリーを考えたのですが、森ビルが崩れ落ちるというメメント・森ビルというタイトルで。

岡部:それは確かに…うーむ。

都築:でも、アートですよ。広告じゃないんだから、自分のイメージがネガティブだからと断ったらかっこ悪いじゃないですか。肖像画がブスだから、「やー」みたいなのと一緒。それこそ、電通に頼んでやってもらってくださいって話だよね。 

学生:主に雑誌の仕事をなさっていらっしゃて、外からの視点を大切にしているとお聞きしましたが、そういうメンタリティーでずっと仕事をやっていけるのはどうしてですか?

都築:プロの目を疑えってことだよね。僕は、美術の記事を書いているけど、美大をでたわけでもないし、全然普通の編集者だったわけ。その頃は、『ポパイ』をやってたんだけど、海外取材とか多いわけです。例えば、NYに行って仲良しになったやつの家なり、クラブなりに行って、そこにかっこいい絵とかがかかってると、良いと思ってその絵を描いた作家について日本に帰ってきてから書こうとしても資料がない。美術手帖で調べても何も載ってない。最初は自分がずれてると思う。だって、あちらの方が専門家だからね。でも、それが重なってくると「ちょっと待て?」という感じになる。もしかして専門家の方が遅れているんじゃないかという気持ちがだんだんしてくる。それで、だったらいーよ、一般誌だけど、こちらからやろうという話になる。僕達は、自分が見たり、聞いたりしておもしろいと思ったことと、プロの人がいうものと違うと、自動的にこちらが駄目という風に教わってきた。だから、勉強しなさいよと。 わからないといけないというシステムで僕達はここまできた。だけど、それを疑う姿勢もたまには必要だよね。どうしても、違うのではないかという時には、自分の方が正しいのではないかと思う気持ちもすごく大事。それがない人はアーティストにはなれない。新しいものを産み出す人にはなれない。それがすぐに評価されるか、死んでから評価されるかはわからないけど、どれだけ自分の力を信じられるかが勝負だからね。僕がこういってると偉そうに見えるけど、僕も頭で考えているわけではない。たとえば日本の田舎とかを巡っていたら、おやじに会うわけですよ。田舎で反重力研究所を作ってUFOの完成まであと一歩とか言いながら40年もやっているというおやじがいる。周囲の笑い者だけど、本人の目は澄んでいるみたいな。そういう人を見ているとああそうだよなって思う。そういう人達は偉そうなことは言わないけど、自分のことだけを信じてやっている。そういう人達を見習いたいなと思う。美術館から仕事が来て森美術館だから、ということで作り直すことも可能だけど、そういうときにあのおやじの言葉が頭をよぎる。そういう人達に出会うということはすごく大事な僕にとっての引き止め役。真似をしろというのではなく、転びそうになった時に引き止めてくれるいいもの。人によって違いはあるけど、そういう人を持つのが大事。そういう人達を紹介したくて、僕は本をつくっているわけですよ。

09 かっこう悪い日本をそのまま愛すということ

岡部:日本の知られざるすごい人々や場所を紹介したいという気持ちをもつようになられたきっかけは?

都築:僕自身、日本のことを知るようになったのはここ10年くらいです。ずっと外国の仕事が多くて日本ってどうなのと海外で話になった時に、僕って日本のこと何もしらないなって思ったわけ。本当の日本の面白さを全然しらない。考えてみると50都道府県のうちいくつ訪ねたかを考えると絶望的になる。『珍日本紀行』も最初は『SPA!』の編集長と飲んでる時、田舎って変なの多いよね。そういうの2、3ヶ月やってみようかみたいな短期連載だった訳です。どういう事物があるか全くわからなかったし。やり始めて面白くなった。5、6年連載を続けて連載が終わった後も、自費でずっと今でも、行ってます。ちょこちょこ行ってまたためてという風にしていた。ひょんなきっかけでしたね。

岡部:自分自身の反省から始まった感じですね。

都築:いかに知らなかったかという・・・それはすごくありました。

岡部:それを都築さんは気がついたけど、気付かずそのまま人生を送ってしまう人が多い。

都築:そうですね。生きてるうちにヨーロッパ全部廻らなくてもいいけど、せめて自分の国ぐらい全部廻りたいと思いません?東京住んでるなら、23区一応全部まわるとか。23区全部行ったことない人すごく多いでしょ。歩いてでも、自転車でも回れる。北海道とかにいくと、メディアには絶対にでないけど、日の丸つけて日本まわってるやつとかいる。黙ってそういうことやってるやつの方がえらい。

岡部:そういう視点で、都築さんにとって日本という国は、「愛すべきすっぴんで、あまり美人ではないけどちょっとはかわいい」となるのですかね。

都築:そういう国だと思いませんか?かっこ悪いけど。

岡部:そのかっこ悪さをみんなで認めないようにしてきたんですよね。

都築:そうですね。

岡部:認められなくても、そうした要素がどんどん増えてる。

都築:だって、本当はそっちの方がすごくメジャーですよ。

岡部:ものすごくいっぱいあるのですけど、見てみないふりみたいな感じ。

都築:報道する立場の人間がマイナーという事ですよ。建築にしたってラブホテル行ってる人の方が安藤忠雄さんの家に住んでる人よりメジャーなわけですし。

岡部:数では負けない!

都築:数では圧倒的に負けない。けど、そういうのが一個も雑誌にでてこないというのはマイナーなわけですよ。例えば『TOKYO STYLE』みたいな本は沢山作れますけど、ものすごくかっこいい東京の住まいの本は大変ですよ。手伝ったことがあって、実感したんですけど。まず物件がない。そういう家に住んでる人が少ないから難しい。「スタイル」って、日本語でいうと「様式」。少ないものは例外で様式にはならないですよ。「例外東京」というタイトルならいいけど。それを「スタイル」って呼んで欲しくはない。

岡部:そうですね。

都築:だから、こっちがメジャーなのだけどなぜか、メジャーではとりあげられない。

岡部:編集者とかマスコミの問題ですよね。逆にインターネットとか、ある意味で大衆主体のメディアを使えばこういうものがぞろっと入ってくるわけですから。

都築:そう、そういう目が大事。自分にとってのリアリティーがどこにあるのかということだよね。

学生:反米、反外国みたいな精神はありますか?

都築:いや、ないよ。僕、毎月アメリカに行ってるし。アメリカの50州全部まわるという企画をやっていて『珍世界紀行ヨーロッパ編』の後は『珍世界紀行アメリカ編』を「タイトル」という月刊誌でやります。

岡部:外に出る機会が多くなると、余計に日本がおもしろいと思うのではないですか?

都築:おもしろいですよ。ただ、外にでるのはものすごくエネルギーを使う。自分がその場に属さないということでね。でも、それが大事。クズ扱いされないとだめ。

岡部:鍛えられますよね。

都築:そう。一つの所にいると安住してしまう。そうするとおもしろくない。編集者でも、僕くらいの歳になるとデスクとかになって取材に行かないわけですよ。お金は儲かるけど。フリーでいるのは、そういうことです。

10 リスクを負ってサポートをする

岡部:最後に今の日本・美術館状況やアートスペースが足りないということについてはいかがでしょう。

都築:森美術館の話が出たからというわけではないですけど、最初の展覧会「ハピネス」展には6億かかっている。東京都現代美術館の2003年の企画予算は1年間で6000万円ほど。森の1回の企画展費用で10本くらいの展覧会をやらなくてはならない。つまり森美術館の予算は膨大だということで、別に民間だし何に使ってもいいけど、何に使ってるんだってこと。森美術館は展覧会はやるけど一個も作品は買わない。ところが作家やアーティストは作品を買ってもらえなければ、サポートされない。普通は、作品を買いそれを集めていって美術館になる。美術館は展覧会に展示する作品を収蔵しているもので交換をする物々交換の世界。でも、自分の所に作品がなかったら、それは出来ない。それでお金をだして借りる。そのお金が高い。でもそれは本当の美術館とはいえない。作家にとってどんな褒め言葉より小さい絵を一枚買ってくれるほうがいいわけ。でも評論家は絵を買わない。絵を買わない人に誉められてもしょうがないんだよね。少しでも、若い作家、同世代の作家をサポートしていくことでしか本来美術館は成り立たない。もし6億あったら日本の現代作家の作品を買うとしたら、100人や 200人分買えるもの。日本にはこんなに美術館があるのに、ここへ行けば現物の現代美術が見れるという場所がないのは、すごく不思議。それが日本にはなくて、そのくせお金だけはめちゃくちゃ使われているというのは異常だよね。おやじに言っても無理だから、20代がやらなきゃだめ。作家は身を削って作品を作ってるんだから、作家にならないやつは、身を削って自分のギャラリーなり、美術館を作ってやらなきゃだめだよね。一緒に仕事をしていくってそういうことですよ。サラリーマンで毎日カップラーメンだけど、浮世絵を年に何枚も買ってるコレクターもいる。そういうの偉いと思う。そういうことでしか、できないじゃない。アーティストと仕事をするのなら、自分も同じリスクを払わないと信用ができない。
(テープ起こし:直塚郁 + 中村美久)