Cultre Power
artist 椿昇/Tsubaki Noboru
contents

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Copyright © Aomi Okabe and all the Participants
© Musashino Art University, Department of Arts Policy and Management
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©岡部あおみ & インタヴュー参加者
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インタヴュー

椿昇(アーティスト)×岡部あおみ

学生:今西彩子、岡田江利香、北田智子
日時:2001年3月30日
場所:神戸のホテル

01 万能薬アーティストが万博にかかわると

岡部あおみ:さっきCAPに行ってきたんです。

椿昇:そうですか。僕CAPでハノーヴァーの仕事をやって、スタッフあれからまだ残っていろいろやってますよ。CAPも最初に相談されて、そのあとハノーヴァーの仕事をしていてハノーヴァーの万国博覧会に至ったという。そこの日本館の内装を南條史生さんが担当されてて実施の仕事を僕に依頼されたんですよ。僕のところに来る仕事というのは全部お金がないから来るんです。コンテポラリ−・アーティストだったら何とかしてくれるだろうということで。どうにかしてくれ、ということで僕のところに来るんですよ。プロデュースの仕事を去年ぐらいからノまあ前からもあったのだけど、最近多くなってきてるんです。

岡部:ハノーヴァーも?

椿: ええ、ハノーヴァーも。まあ何かやってみようということでやってみたのですけど、それなりのメリットとデメリットが出てきて。まあ、メリットというのは、僕にとってパブリック性が出てくるというか、僕自身のね。社会的な、というかノ。悪い意味でも良い意味でもパブリック性が出てくるということで、悪い意味では平山郁夫さんみたいなケースですよね。良い意味では、ノンプロフィット。NP岡部ですよね。ノンプロフィットで社会に仕事を還元することもできる。そこがすごく難しいですねノ。
コマーシャル・アートの世界では構造を作らなければいけない。そういうことを考えたときにコマーシャル・アートの世界ではちょっと良くないことをやってみるのも価値があるなと。そういうことでまあトライしてみた感じですね。

岡部:万博に関わるのは初めてですね?

椿:そうですね。予算が超緊縮だったので、知恵がないかということで僕が全部企業協賛走って、僕が半ば運営のステージ作るとかして基盤を作った。南條さんが、前僕にパブリック・アートを頼まれたときにプレゼンもしてて、それで、南条さんがその話を運輸省に出したんです。

岡部:万博というのは誰がどう関わってどう起きてきたのか、よくわからないですね。

椿:僕もよくわからないけれど、非常に複雑ですよ。ジェトロが主体になって通産省と運輸省と郵政省ですか?その三省庁でやってるんですよ。

岡部:ハノーヴァーは市が主体になってやってるのかしら?日本は国ですよね?

椿:ドイツは州の独立性が非常に強いわけですよね。だから州単位で。

岡部:産業系だけで、文化庁とかは関わってないんですね?

椿:まったく関係ない。特にひどいのはセビリア万博の時なんかは、日本館の中はバラバラに担当してますよね。

岡部:セビリア万博、見に行きましたよ。安藤忠雄さんが日本館のパヴィリヨン作ってました。

椿:そうそう。非常に問題をはらんでますよね。で、社会構造のなかで今一番大問題なのは日本の場合は官が大きすぎるので、税金を集める部分は勿論いろんな不公平がある。人類の歴史を考えると、中央集権的に何かを中心的に集めて、配分システムをいろいろ考えてきたわけなんだけど、今は税金を集めて再配分していますよね。再配分をするときに一番よくないのは時代の動きと流れにあわせて変えられないこと。問題は50年前に一度決めたらそのまま繰り返していること。これだけネットワーク・デジタル社会になって経済的に動くようになっても、まだ繰り返している。たとえば一番ひどいのは明治時代に作ったシステムがそのまま残っている。税制も法律に関しても。特に税金の再配分が、時間の変化に即して変えて行くことができないんですよね。既得権という言葉もあるんだけど、(個人または国家がすでに獲得している権利。歴史的には私有財産について不可侵の権利として主張され、立法政策上既得権はできるだけ尊重すべきものとされている。)みんなが最初にきめたやり方でずっと同じ切り方をしている。女性問題でも同じこと。女性の税金の問題とかも非常に不合理に出来ている。日本は女性の奴隷制社会なんです。結婚して男の人のいいなりになっていたら、税金はあんまり取らないけれど、一度働くとすごく税金を取られるんですね。女の人がもっと働いてもっともっと稼いだら、下手すると稼がないよりもひどいことになる。教育問題に関してもそう。みんなが大学に行かなきゃうまくいかない仕組みになって、年間およそ200万円の学費を払うことになって君達も犠牲になってる。そういうところで社会システムがあまり合理的に出来ていない。100年たっても1000年経っても氾濫しない河なのに、どうしてこんなところにダムを作るのかっていう所もある。
夏に今度読売新聞の主催で神戸のポートアイランドの国際展示場で科学博覧会があって、それに関わってるんですけど。僕には読売からきたんですけどね。万博も変な契機なんだけど、ワークショップをやってほしいということで文化事業部から最初は来るんですよ。それで、うまくいかないと僕が調整するでしょ? そこで企画してあげたり、ということになって、向こうがああ最初から僕に頼んどけばよかった。っていうことになるんですよ。でもそれは僕の大切な仕事だと思ってる。最初、入社二年目の人が、僕をインターネットで見つけてくれたんです。社内で戦いながらインターネットで見つけてくれたその女の子の根性があったから僕は今の仕事をしているわけ。その女の子は会社の中では親父さんたちが偉いからずっとナーバスになって、潰れそうになって。そこで人生相談とかもしていたんだけど、値段があまりにも安いから、さよならってメール打ったんですよ。馬鹿にするのもいい加減にしなさいよ、と。

岡部:ちなみにいくら?

椿:少しずつ派生して1つのブースやることになったんだけど、科学博のワークショップで最初は30万。僕がチーム持っているから、僕とスタッフで理想的な案とかCGに書き起こしてプレゼンテーションして、こっちでやろうよみたいな話になってきているうちに、計画に関しても、我々の方が動きが速くてその時々に言われたらすぐに出てきて、何々がしたいんですけど、協賛はここがいいですと提示してあげると坂浦先生(東大教授)が徐々にそっちで頼もう。という話になった。


「Cochineal」UNapplication No13 -No Win No Lose-
「人とロボット展」2003年10月 パリ日本文化館
材質;ERP、モーター、MIDI、ウエブサーバー、プロジェクタ、専用プログラム
© 椿昇


「ペンタ」UNapplication No7
「国連少年」2003年3月 水戸美術館
材質;アルミ躯体、空気シリンダ、コンプレッサー、マイコン、専用プログラム
© 椿昇

02 代理店機能をもつ作家と監修者

岡部:具体的にはどういう人たちがどういう内容でやろうと?

椿:具体的には読売新聞と神戸市がポートアイランドという場所で。そして僕が裏方をやるんですよね。監修者がいて僕が裏方なんですけど監修される人はほとんど実際何もわからない人で、どうやっていいかもわからないからそれで我々の仕事になるわけなんですね。

岡部:そんなこと出来るアーティストもそういないでしょ?

椿:非常にいないんですよ。

岡部:僕らがと言ってますけど、個人的な椿さんの話であって、必ずしもすべてのアーティストが出来るわけじゃないでしょ?

椿:僕はひとりで代理店が出来てしまうんですよね。代理店機能をもったアーティストなんですね。だから結局ね、電通っていうところは頭はいいけど、非常に意地悪な人たちが多いので、すぐに相手の値踏みをするわけなんです。具体的な数字の羅列をしたりとかね。 電通とのバトルも凄かったんですけど。ものすごくゲームとして面白い。チェスをしているみたいな。

岡部:でも大体その万博みたいなものは、電通とか 博報堂とかが関わってくること多いですよね。ハノーヴァーも電通が関わってるんですか?

椿:結局ねえ、電通に頼むだけのお金がなかった。電通にしても博報堂にしても、今は仕事取るために超ロープライスで受けるんですよ。僕の場合は元々インディーズなんで、別に喧嘩売ってるわけではないんだけど、小さい生き物が生きていけるようにしたいんです。電通とかは資金力でしょ?それでお金が儲かるとかじゃなくて小さいものと大きなものがどう過ごしていけるか、ということに僕は非常に興味があるんですよね。で、彼らといろいろバトルをしたり、でも喧嘩するわけじゃないから。信頼関係もあついし。

岡部:ハノーヴァーの話に戻りますと、そういう場合、三省庁がもし1億で電通とやるっていうことになると、電通に全部お金を入れてしまうわけですか?

椿:そうですね。全部電通にお金が入りますね。作家とかクリエーターには殆どお金が入ってこない。

岡部:まずそこがプールして、具体的には監修者と話をしながら動くときに、電通が蛸足のようにいろんなところに発注してそこがやっていくということですね。

椿:そう。すなわち、トヨタが車作ってるんじゃなくて、町工場がプライスダウンさせられて2割3割落としで作っている。そういう町工場とか、クリエーターとかの犠牲の上に成り立ってるから。ああいうところは、一種の奴隷社会。だから放送局っていうのも全部そうで、全部プロダクションがやってる。ところが先生となるとお金が来るわけですよ。監修者となるとくるんです。先生というのはある意味何も出来ない方がいい。お飾りで、両方の言い訳に使うわけ。ある種のショック・アブソ−ヴァ−ですよね、監修者というのはね。保険かな?大学の先生は保険の役割を果たす。(本の)帯なんかにも書くでしょ?これはすごい本だって。ある種の保険の役割を果たす。僕は別にそれを悪いとは思わないしね。当然社会の機能としての役割もあるからで。ただ、もうちょっとクリエーター・レベルでその人たちの名が売れたり、若いクリエーターが上がっていくようになればいいな、と。

岡部:で、ハノーヴァーの場合は、電通にプールされたお金とは別に椿さんが動いたわけ?

椿:いや、電通から貰ったんですよ。僕いろんなことやらされたんでね。アイランドっていう島の表面のグラフィック作るのに三ヶ月くらい泊り込んで、CAPを拠点として昼夜交代で寝泊り酷使。一室を借りて、やなぎみわさんの紹介の人たち、デジタルの職人で、そういう人がふたり。ファミリーな状態だったからカップルな状態だったから、サバイバルユニットで保つことができたんですよね。

岡部:家内工業みたいですね。

椿:それで支えてる。それでエプソンの9000Cという大きなプリンターがあるでしょ?あれを三台僕のコネで借りて。

岡部:それをCAPに持ってきたの?

椿:そう。エプソン担当者にも南條さんがいくら上から頼んでも許可が下りなくて、僕の営業サイトから横流し状態でね。間に合わないから。それで決定がどんどん遅れていくし、上でチェックばかり入る。僕はもうアーティストだから僕にお任せください、悪いようにはしませんということで、ある種の脅迫も入れていかないと。チェックも入れさせないと。グラフィックに一日中チェック入れてたら間に合わないからね。もう限界だと感じたら見切り発車する。結果良ければそれでいいからね。その辺の判断が僕は出来るけど、部長さんとかはできない。判断することは絶対にしない。部長さんとかは出来ない。

岡部:チェック入れるのは電通の人?

椿:チェック入れるのは省庁の人。そういうところアーティストというのは非常に素晴らしく有効なシステム。

03 世界中が工房になってくる

岡部:機動力がありますものね。そのスタッフにはアルバイト賃ぐらいは支払ったわけですか?

椿:勿論払ってます。結局僕が監修料っていうのを取るでしょ。150万円くらい。そこから機材費とアルバイト賃を出した。それでまあ彼らもノ1ヶ月10万くらいだからきついので、食べるもののお金は別に出して。きわどい仕事ですよね。そしてマシンないでしょ?だからマシン買ったり自分達のマシンを全部持ち込んでプリンターを3台借りて。それで700メートル刷った。

岡部:すごいわねえ。

椿:インクジェット・ペーパーで700メートル。昼夜刷りだして、オリジナルで作りながら全部すり出していくから、ほとんど寝ながら、プリンターから出てくるのを見て。ひとつの紙がイラストレーターとかで処理出来ない大きさなのね。それにグラフィックを全部割り付けて。ああいう職人が若い子の中にたくさんいる。そして若い子のほうが、すごく昔気質なんですよね。デジタルやってる人ほど昔気質。僕らのスタッフは大工さんみたいな。昔の工房と同じ。

岡部:みんなで一緒にやらないと出来ないことが多いからではないかしら?一人でやっているのと違うから。メディア系の人ってチームワークが大事だということをわかってるいんでしょうね。

椿: 一人で完結しないこと始めからわかってるんですよね。そしてチームワークが大事っていうのは僕達はインターネット社会で育ってきてるからノ。僕はちょっとおじさんなんだけど別に若い子と意識的な違和感がない。メールでやりとりしたりノートパソコンとか持ってたらどこでも見れるでしょ?すぐそこで書き加えて絵コンテなんか直してまた返すという。絵コンテなんか前だったら絶対こんな仕事出来てない。動きながら全部仕事していけるから。だから理想的なのは高速のLANですよね。テクノロジー的に言えば。ISDNとか言ってるけど。最も理想的なモバイルであるLAN、あれが無線でだんだん出来るようになってきてる。あれを街とか国に広げることができる。それと低額性ね。五千円ぽっきり使いたい放題とかいうやつね。日本中でしたら、国際電話がいらなくなる。インターネットで、「あ、もしもし俺だけど」ってすぐ言えるし。電話代いらないからね。人間のライフスタイルによってものの考え方が変わっていく。一番大事なのは流動性だと思う。できるだけ軽くて小さくて書いたり作ったり喋ったり、いろんなことが出来るようになると多分世界中が工房になってくると思いますね。
それとメディア系の作家というのは、すごく普通の人が多い。おたくっぽいと思うけど逆にね。

04 アートは非営利なNP岡部に、時間は3Dに

岡部:アーティストとして特殊に神話化することがないせいでしょうね。いわゆるアーティストっていう大きな看板がないというか。

椿:そういうの古いと思って始まった人が多いから、戦って始まった人が多いからね。いろんな悪い面も多いけど、アノニマスなことを人のためにすることはみんな全然平気なんですね。イマジネーションが支えている。大手のNHKとか大企業にいながら裏で仕事しているんですよ。みんな稼ぎはそっちで得ているんですよ。みんな正規の社員。でも裏でこんなのしたい、裏でプログラムしたい、それを作品にしようぜ、という動きがある。そこでアートそれ自体が非営利なNP岡部になる可能性がある。日頃日常の面白くない仕事じゃなくてね。

岡部:でも面白いからやるんですよね。

椿:そこで稼ぐのじゃなくて損しなきゃいい。損は出来ないからね。一応僕なんか今「スパイラル」の仕事しているでしょ、これもほんとうNP岡部的なというかノ。

岡部:「スパイラル」の仕事っていうのはどういうものですか?

椿:「スパイラル」は「ランデブー」というプロジェクトなんですよ。「ランデブー」それ自体はバリアというか。たとえば通産省が1兆3000億ですって決めたらもう1円でも減らさないっていうのが役人の考え方なんですね。減らすんだったらみんな均等に減らす。これはよくないね。これをこっちに足しましょうとできたら日本はいい社会になるのに、それを全部一緒に下げようとする。悪い平等だね。それを判断する人がいない。それは政治家がしなきゃいけない。それを長野県知事の田中康夫がしようとしてるでしょ?田中さんは自分でジャッジメント(判断)しようとしている。こうしたものをこっちへ回しましょ、というのをね。日本の一番良くないのは一度出来たフレームを変えられない。女の子の問題でもそうなんだけど女の子自身もそれは良くないなと思ってながらも変えようとしなかったりするから、女の子自身にも大きな問題点がある。日本の組織のなかにはいっぱいある。それをゆっくりでも会社は会社でやっていかなきゃ。そして、仕事をきちんと持っている人程長続きするんだね。

岡部:正規の社員で裏で好きな仕事している生活は大変かもしれないけど、一種の余暇でもあり、それにプラスしてやりたいことをやっているわけですよね。アメリカなんかはボランティアの人が多いではないですか。サラリーマンが余暇の時間に、いわゆる余暇ボランティアのような感じで、それがよりクリエイティブになればもっと投資もできるわけですね。

椿:だから僕はそれをどんどん推し進めようとしていて、それが「ランデブー」で今はいろんな業種の人たちと話をしたり、今はネットでメーリングリストがあるから割と簡単に情報が伝わるしね。で、僕もメーリングリストを5つくらい持っててそれぞれ仕事に合わせて使ってる。それを相互に利用することで実はね、余暇が土日だけじゃなくなったんだね。それとオンタイムでもそう。だからいろいろなものが浮遊し始めている。我々が経験してきた時間の区切り方じゃなくて重層化しつつある。時間が3Dになりつつある。徐々に時間が不可逆的に、一回きたら戻らないみたいな、矢印になってきている。ところが今はマトリックスになってきている。立体になってきている。だから線じゃない。それなら何なのだろうか面なんだろうか立体なんだろうか。ネットで仕事をしていたら体力差なんてない。非常に簡単な例で言えば車運転するときに僕が軽自動車であなたがダンプに乗っていたらあなたの方が身体的に強いわけ。でもコンピューターの中では我々の持っているものが拡張したり拡散したり別のものになってくるから差なんてない。我々の命も別のものに変わるからそういう意味で非常に不思議な時代がきたなあ、と思う。

岡部:ここ2、3年ですよね。特に1,2年かな。非常に劇的ですね。

椿:そうですね。で、非常に劇的に早くなったのを無意識に支えてるのがiモードなんですよね。iモードが世界的に見て一番成功している携帯端末ですね。これだけ成功したネット端末はない。我々は、日本経済がどうのこうのとか森首相が最悪だとか言ってないでもっと日本でうまくいっているものも沢山ある。大切なのはアドバンテージをどうしていくかというところなんだね。そして、そういうものを何が支えてるかというと欲望が支えてるんですね。小さな気持ちが全部社会を動かしている。それをどう記述していくかというのがアーティストの仕事なんですよ。

05 ギャラリーシステムに乗ってない

岡部:話は変わりますけど、椿さんご自身の作品は立体的でボリュームのある大きなインスタレーションで、しかもポップできれいな色というのが多かったんですが、最近はメディア系のものが多くなりました?パブリック・アートは立体のものを続けているのですか?

椿:横浜トリエンナーレの出品作品(実現したのはホテルの建物の外部に設置した巨大なバッタ)はだんだん大きなものになってきましたねえ。それと、あんまりねえ、不可分になっちゃった。

岡部:同時並行的にいろいろやってるから違和感がない?

椿:そう、違和感ないし、別に大きなギャラリーのシステムに乗ってないから。全然違うNP岡部みたいなもんですね僕自身が。ずっと学校の先生しながらやってるし最初からNP岡部で行くぞみたいな。

岡部:椿さんのようなかたちで、学校の先生をやってアーティストとしての仕事の両方を両立させている人って以外に少ないでしょう?

椿:もうみたことがないね。

岡部:アーティストの仕事だけでは食べられないので、大学の先生などをやってる人が多いけれど、意識的には割り切ってますよね。

椿:非常に簡単なんだけど、ウィルスと同じ精神構造を持ってて。ウィルスの例で言うと人類が一番悪いんですよね。何が悪いかっていうと、大脳持ってるでしょ?大脳がこれだけ大きくなかったら、環境の変化に適応するのが何万年とか何億年とかかかっちゃうわけでしょ?これがあるから数秒ですぐ適応していく。どんどん適応していく。その速度っていうのはウィルスなんかよりもすごい。実は人間の脳っていうのはウィルスと殆ど同じで、人類っていうのは、脳っていうのはウィルスなんです。非常に不思議な生き物で、どんどん、そう、近代になって芸術家というのは、偉いんだという入れ知恵をされたけど、放っておけばね、別に先生しててもいろんなものを自分の方に取り込むことが出来る。だから本当にその時、別に先生してても僕は可能だと思う。パラサイトして徐々に徐々に正体を出していく。長いことかけてね。喧嘩もしないし、じわじわ浸透していく。そういう方法も身につけないと。 

06 ミュージアム・ホームレスか、幼児性美術館か

岡部:そうですね。それに今非常に脆弱ですよね。急速に変動している中で変わりえないシステムに、それ自体、「縮小しろ」みたいになってきていませんか?そのひとつがミュージアムだと思うんですね。アーティストも対応出来ない財政的な難しさがある場合には、同じようになってきている。それをどうしたらいいでしょうか?

椿:僕非常に冷たい人なんですけどね。

岡部:なくなればいいですか?

椿:そう。それとか、あそこがアパートになるとか。本当に一番いいのはあそこにホームレスがいっぱい住むこと。

岡部:ミュージアム・ホームレス?

椿: ホームレスホーム。そういう形のプレゼンもあるかなと思うけど。ハードウェアに関して言うと、場所があるって非常に強いんですよ。だからね、場所をどう持っていくかというのは、そこのキュレーターの資質の問題、人材の問題という気がする。その人たちの運営の力とか、ヒューマンなものとかね人間性に尽きるんじゃないかなあ。そこのキュレーターが運営すると本当にこんなにすごいものになるから見てほしいと思っているか、いやだなあと思いながら、隅で仕事しているかね。

岡部:ただやっぱりねえ、公共に開かれたところだから観客が来てくれないと。

椿:そうなんですよね。 

岡部:ネットの世界でいろんなクリエイティブなことが出来ても、本物を見てそれで身体的な感動を受けるということとは別なんですけどね。

椿:もう1つしかない。御飯。もう最高のレストラン。最高の飯。そこに行ったらエレガントな体験が出来るとかね ヨーロッパのミュージアムとかそうでしょ?コペンハーゲンの郊外にあるルイジアナ美術館とかね。それと日本社会で一番難しいのは日本って幼稚なんですよね。子供の国なんですよ。大人向けのサービスがうまくいかない。子供向けのサービスはいろいろあるんだけど。いろんな意味で幼稚なんですねおじさんでもミニモニだから。日本はね子供の社会なのね。徹底して日本の幼児性を満足させるミュージアムが一個あってもいいのかなあと思いますね。フィギュアしかないとか。美術館を特化してオタクミュージアムとか。オタクの殿堂みたいな。入ったらグッズばっかり。(笑)

岡部:でも今いっぱいあるじゃないですか?オルゴールミュージアムとか。

椿:そういうのはね、いろいろあるんだけど、でも現代アートでもそっちの方に尻尾振ってるでしょ?みんな。売れないからね。あれもサバイバルですよ。だから悪くは言えない。商品としてヨーロッパに売ろうと思ったら彼らの欲しがるものを作らなきゃならない。これって基本なんですよね。彼らのところにあるものを作ったってしょうがないですよ。だから森万里子はいろいろ言われるけど。まあ彼らにとったら、違いがわかるということが大事。そんなに深く考えないからねヨーロッパの人もアメリカの人も。日本のことなんてマニアックな人しか考えてないから、パッと見でいいんですよ。それで岡部Kなんです。一種の予定調和みたいな世界が出来てるからね。

岡部:椿さんご自身は、作品を売ろうと思ってつくることはないわけですね。

椿:僕自身はコレクターが嫌いなんですね。

岡部:買ってもらうことに興味がない?

椿:そう。今が面白ければいい。逆に言えば子供っぽいのかもしれないけど。ハードディスクはあんまり興味がない。  

岡部:活動することにしか、行為していくことにしか興味がないんですね。

椿:行為とかアクションとか何かが動いてるもの。だから僕はモバイルが好きで。結果的に作品を残すということにはあまり執着しない。

岡部:そういうアーティストかなりいるんですか?メディア系の人は多いのかしら?

椿:メディアはね、消滅することを前提として作ってるでしょ?同じものはないし、すべては行く川の流れは絶えずして。西行とかね、それに通じるようなものを持ってる人が多い。それでいてわりと合法的というかね。僕、アーティストの島袋道浩とかが好きなんですけど、彼は流動すること自体を作品としてるから。

岡部:メディア系ではないですね。 流浪詩人みたいだと思います。

椿:彼は日本の西行とかが持ってたシステムを持ったんですよ。旅の仕組みを作品の中に取り入れたんです。

(テープ起こし担当:今西彩子)


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