culture power
artist 竹村京/takemurakei


















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コメント

 透き通るような白。デスクに向かう女性は窓から差し込む気持ちのいい光に照らされている。オーガンジーの布がきらきらと輝き、ゆらめいている。 『dancing N.N at her room and at the same time in a library in Berlin』
「VOCA展2009」で発表された、竹村の新作のタイトルである。「時と記憶を留める」…これは彼女を評する時に、よく使われる言葉だ。縫い付けるという行為は恒久性を併せ持つ点で、この「時と記憶を留める」という表現に間違いはないだろう。しかし、竹村の作品はそれだけでは終わらない。トレーシングペーパーと、布は互い違いに合わせ、幾重にもなった時間の層を描いている。これはレイヤー上に人々の記憶の集積を留めるどころか、私たちの眼前に新しい命を吹き込まれた生物(いきもの)となる。 「モデルとなっているN.N.さんが、日本舞踊の先生でもありダンス研究家でもある人であることがきっかけで、人間の動きそのものに焦点をあてた初めての作品でした。」 彼女はメールで新作についてこのように語ってくれた。彼女がこれまで重要なテーマとして扱ってきた「うつろい」や「人々の記憶」というテーマから、人間そのものの根源に迫ろうと試みたのだ。インタビューからも分かる通り、繊細な作品には、裏打ちされた確かな言葉と思想が隠されているがゆえ、彼女の作品は生き生きとしている。重なり合うトレーシングペーパーと布とが風が吹くと小さくはためいている。その様は、タイトルのごとく、くるくる、ひらひらと儚く踊りだすかのようだ。まるで、止まることをやめない時計の針みたいに。

(瀬野はるか)