イントロダクション
池松江美という本名がよく似合う地味で静かな雰囲気の辛酸なめ子さん。
辛酸なめ子という名前の激辛・辛辣なイメージとは対照的な奥ゆかしい方だったので、面食らってしまった。しかも、超マジメ! 約束の時間に1分の遅刻もない。
気づかいの細やかさは、「女・一人日記 池松江美」などにも滲み出ているけれど、これほどとは。表現がもたらす社会的価値観と自らの立ち位置への謙虚な自覚、それは天命ともいえる仕事へのひたむきさに裏打ちされて、胸を打つ。
自己への関心と陶酔が我が物顔にまかり通っているこの国で、この人の冷静さはじつに「クール」だ。クール度を自動調整できるように定めているアンドロイドのような感じもある。
人生の渋み、斜見、嫌味などを、さらりと見ぬいて、ネガティヴをポジティヴに変える錬金術師。
漫画もエッセイもオブジェも超マジメであるところが、断然スゴイ。
嘘がない。現代では希少な芸術家である。
メディア・アクティヴィストの前途に大いなる幸運を。
(岡部あおみ)