Cultre Power
artist 小谷元彦/Odani Motohiko


Human Lesson (DRESS01) H1665×W780×D300mm 1996
Mixed Media, Fur of Wolf
Collection of Ryutaro TAKAHASHI
Photo : Masakazu KUNIMORI
©acrylic frame










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イントロダクション

小谷元彦氏が2000年に参加した第五回リヨン・ビエンナーレ「エキゾティスムの分かち合い」展は、リヨンで開催されたビエンナーレのなかでも、とりわけ特異なものだった。コミッショナーはジャン=ユベール・マルタン、かつてパリで「大地の魔術師たち」展を開催して、物議を引き起こしたキュレーターだ。5人の民俗学者と協力して、異文化へのポストコロニアルなアプローチを行い、日本の参加者は、小谷元彦、中山ダイスケ、村上隆、福田美蘭。

小谷元彦の出品作は、白い服を着て横たわる黒髪の少女が、血痕のようにつぶれたラズベリーを、開いた両手のひらにのせた5枚の写真『ファントム・リム』(1997)と、牙をむき出しにして吼えるような狼の頭部が2個ついたマント状の毛皮に、黒いストッキングとハイヒールを組み合わせた『ヒューマン・レッスン(ドレス1)』(1996)のインスタレーションだった。前者は少女の無垢でスウィ−トな夢を、後者は赤頭巾の童話のおばあさん狼を彷彿とさせるが、両者とも血なまぐさい残酷さと「食」の忘我的快楽を喚起する豊穣なストーリー性に満ちている。

出身が木彫ということもあり、小谷元彦の身体への関心は、表皮としての皮膚と、それに包まれ、隠された流動的な生と性の闇といった内と外の二つのエレメントからなっている。表現された身体(アート)は、「幻肢」でしかなく、多文化的イメージの歴史的な記憶のアーカイヴにリンクする多種多様なコードの集合体である。アサンブラージュによる既成のコードの読み替えと、フェティシズムが漂うエロティシズムへの没入は、立体作品だけではなく、現代をえぐるシャープな冴えがひらめく映像作品にも同様に垣間見られ、遠くシュルレアリスムとの絆も想わせる。

とはいえ、そのモダニズムの直系に位置する「表現の意味」を裏切るもうひとりの作家(ファントム)が不気味に存在している。小谷の作品の醍醐味は、ずれては重なるその存在の二重奏から生まれているのだ。その亡霊は、おそらく死を宣告された、あるいは自殺を強いられている「真正なる木彫家」、生粋の腕をもつ彫刻家の影...

このファントムのネガティヴなエネルギーからたち現れる棘のようなインパクトが、未知なるフォルムへと結晶し、それをふたたび溶解させながら高揚し続ける。その幻想の時空間が、めくるめく速度で竜巻となる。

(岡部あおみ)