Cultre Power
artist 内藤礼/Naito Rei

内藤礼「地上にひとつの場所を」
©Rei Naito









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イントロダクション

はかなさ、か弱さが強さでもあると内藤礼は言う。 たよりなげな作者の秘めたる力を信じたい。

2005年春、銀座のギャラリー小柳で行われた「地上はどんなところだったか」ほど、ささやかなときめきと微細な振動が空間のすみずみまでゆきわたった個展はない。静かなテンションを感じながら息を殺して見ていた。 短冊をたわめてガラスの玉を載せた『舟か花か礫か』 (2005)、空気を包む白いオーガーンジーの『枕』。一見、だれにでも作ることのできそうな微小な世界は、破壊と死と再生と誕生を同時に生きている。それは無名・光を意味する『ナーメロンロス/リヒト』の可視と不可視の間を揺れる薄い桃色へと続く、生と死のあいだの感触でもある。

思い出すのはパリ。内藤礼のはじめての海外での個展を見ることができた日本人はそんなに多くはないだろう。1991年に佐賀町で行われ、内藤の個性を強烈に印象づけた「地上にひとつの場所を」が、パリのギャルリ・デュ・ロン・ポワンで開催された。ほとんど毎日、作品をケアしている、華奢だが巫女のような少女が現れ、胎内空間のような布で閉ざされた場所へと導き入れられる。守られているようで野生的な聖域。遊びなのか、祈りなのか、人間の行為のたわいなさが描き出す原初的な風景の静けさに、自己の輪郭が研ぎ澄まされる思いがした。

第47回ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館は、パリで得たみずみずしい衝撃を、反芻し追憶する場となった。直島に常設された「きんざ」の『このことを』は、帰郷の度に思い出す、時間とともに失われてゆく心の柔らかさの大切さを伝えてくれる。

強靭なインパクトや刺激とは対極にある作品のあり方を、内藤礼ははからずして示すことになった作家である。まだだれも踏み入っていなかった未踏の場所に座り、人知れずこつこつと作りつづける内藤の姿に、清冽な虚空を見る。
(岡部あおみ)