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artist 宮下大輔/Miyashita Daisuke
contents

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Copyright © Aomi Okabe and all the Participants
© Musashino Art University, Department of Arts Policy and Management
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©岡部あおみ & インタヴュー参加者
©武蔵野美術大学芸術文化学科
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インタヴュー

宮下大輔×原田裕規(芸術文化学科2年)

日時:2010年8月28日
場所:広島市、ロイヤルホスト幟町店にて

01 作品について

原田裕規(以下:原田):まずは、宮下さんの制作ラインの全体像からお話をして頂いてもよろしいでしょうか?

宮下大輔(以下:宮下):作品スタイルは今は主に3種類のラインがあって、ひとつは物を並べる作品(図1)、ひとつはドローイング(図2)、ひとつは立体(図3)という3つでやっているんだけど、全部別々に分けているわけではなくて同じ感覚でやっています。


図1
20090519
Copyright © 2011 Daisuke Miyashita. All rights reserved.


図2
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Copyright © 2011 Daisuke Miyashita. All rights reserved.


図3
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宮下:大学の頃、アトリエには扇風機もエアコンも無くて、夏は暑くて苦しそうだからそれに備えて学校のゴミ捨て場に扇風機を探しに向かいました。無法地帯かというくらいいろんなものがたくさん捨ててあって、扇風機はすぐに見つかりました。他にもコンポとかテレビとか電気スタンドとかも見つかって、いっぱいいろんな物が出てきました。すごくワクワクしました。今思えばそこの風景にインパクトがあって、作品の行く先に影響を与えた場面だったんじゃないかなと。それをアトリエに次々と持って帰って、整理するんだけど、それが楽しかった。物が集まってフォーメーションを組んでいるかのようですごくおもしろかったし、そこで何か「こっちじゃない、こっちかな」みたいに調整するバランス感覚が生まれて、それが発展して今の作品のイメージになったんだと思っています。思い返せば大学の時のあのゴミ捨て場やアトリエに集まった物の姿や様子とかが最初なのかなと思います。気配というか衝撃があったかもしれない。美術的にどうとかではなく、何かカッコよかった印象がある。卒業後しばらく工場に働きに行ったことも重なって影響になっていると思う。男の子的なものかもしれない。


図4
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Copyright © 2011 Daisuke Miyashita. All rights reserved.


原田:物を並べる作品もドローイングも立体も同じ情報源から出てきているわけですね。

宮下:そう、実在するもの、事実、から出てきている。例えばドローイングでは製品から形を持ってきて作っている。サンプリングです。

原田:「実在するもの」という言葉について詳しく教えてください。

宮下:最初は自分のバランス感覚で、図形みたいなイメージ(図5)を描こうとしていたけど、同じようなものばかり出来てしまうし、やればやるほどつまらなくなってしまう。それに気付いて、新しいものを作り出すために何か他からキッカケを得ようと思った。自分の中からではなく、何か外部から取り入れようと。その時になぜかわからないけど電化製品の形ってすごいなと思ったんです。使いやすさや製造の理由でできた形だとしても造形物には変わりないし。形の理由を無視してただの造形物として見た時にこれはスゴいなと。意味不明な謎の物体だと思ったんです。他の多くの人みたいに「これは何々を表している形で、この色が何々を表している」といったパターンの説明は、私がしても信じてもらえない場面が多かったし、信じてもらえないと思っている。しかし実在するものを使えば絶対だから否定できない。その形も存在することも事実だから。そう思うようになって、今は抽象的なものを使うことはない。


図5
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宮下:逆に何も外部から取り入れず、手の動きだけを取り出した作品もあります(図6)。手の動きという意味不明な事実を取り出した作品です。


図6
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02 実在する物について

原田:物を並べる作品(図7-1、図7-2)やドローイングはダイレクトに「実在する物」を扱っていますが、立体作品(図8)になると、直接「実在する物」を作品にするわけではなく、例えばシンプルな箱型の作品もありますが、その辺はいかがですか?


図7-1
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図7-2
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図8
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宮下:もともと四角い箱的物体は私にとってすごくカッコいい存在でした。貯水タンク、コンテナ、冷蔵庫とか。ダンボールはたぶん小さい頃から好きです。カッコイイとかミステリアスとか、色んなふうに思っていました。のっぺらぼうというお化けがいるくらい、何も書いたり付いたりしていないことは奇妙で、そんな箱がでんと置いているということ、何の装飾もなくて何のアフォーダンスもない、全く何もないことに惹かれますね。同じく広告の入っていないまっ白な看板にも惹かれます。『新世紀エヴァンゲリオン』でいう使徒(図9)みたいな、何を考えているのか分からないけど、とても強そうな感じ。


図9
『新世紀エヴァンゲリオン』第五使徒ラミエル


宮下:パソコンのデスクトップや冷蔵庫みたいに、中がどうなっているかわからないけど、歯車とかではない謎の部品がじっとしたまま何かしていて、しかも熱も持っていて、よく聞くと何やら音がしている感じがカッコイイ。そういう「実在する物」からできた物体です。あとは貯水タンクとかコンテナとか工事現場の囲いの塀とかを持ってくるわけにはいかないから自分で作っている感じかな。もしできるなら拾うか買うかして並べてるかも。

原田:この作品(図10)はアンデパンダン展の作品ですよね。これは物を並べる作品でしたが、箱の上に物を配置していて、箱の中からは音が出ていました。まだ立体作品を始める前のこの時期に、物を並べるスタイルの作品として、今お話して頂いた立体作品のスタイルの原型があったと捉えられますね。


図10
20080408
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宮下:自分の作品からも影響を受けていて、どんどん取り入れつつ、続きを進めている、というのがある。この作品(図10)を離れて姿をみた時に何かインスパイアされた可能性はあると思います。上にある物がその後の作品のアンテナや細かい装置になったとか。実際に材料も使い回しているというか、「トランスフォーム」と言っているんだけど、例えばこことここで使っているのは同じ部品(図3、図8、図11、図12)です。自分の中でその作品の続きのイメージが発生して、それを素直に実行している感じです。確かに展示の時点で完成ではあるんだけど、直接作品に手を加えて「続き」をしています。基本的に中に何か入れています。


図11
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図12
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03 箱の中身について[1]

原田:中にはどういう物が入っているんですか?

宮下:ラジカセが入っています。3台から5台くらい。それぞれに違う音が録音されたカセットテープが入っています。ラジカセからは基本的にカセットに録音した音を出していますが、ラジオのノイズ、「ザー」とか「サー」とかいう音で、時々放送が聞こえるか聞こえないかくらいの音を出すこともあります。ラジカセの他にラジオやポータブルカセットプレーヤーを入れることもあります。音を外付けのスピーカーから出すこともあって、実際に展示場所で音を出してみて決めています。

原田:どうして音を使うんですか?

宮下:基本的に音がしないのが不自然な感じがするからです。無音状態のテレビやPCからも音が出ているし、全く音がないのは故障中のように思えるんです。「スイッチ入ってないじゃん」「電池切れてるじゃん」「動いてないじゃん」という感じ。冷蔵庫がじっとしていて動かないけど、響いてくるような音を出している感じです。正面に生きた人が立っているのに、何も反応が無いとおかしいと感じるように、全くの無音は「反応無し」な感じです。現実空間の中での完全な無音というのに違和感がある、というのもありますね。歩けば足音がするし、少し体を動かすだけで服がこすれる音がする。窓を開ければ静かな夜中でも風の音や何かの音がします。そういう事実の中で、作品というある意味で「生きている」とか「作動中」みたいなものが「し〜ん」という無音なことは違和感があります。音を使い始めた頃、展示の現場で「視覚」は作品なのに、「聴覚」が誰かの話し声や人の足音など関係ない音であることに違和感がありました。例えば犬の姿と「わんわん!」という鳴き声がセットなら自然なんですが、犬の姿と誰かの話し声がセットだと、どこか放ったらかしな部分があって、作品に抜けてるところがあるなと。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。作品は物体なので、極端に言えば触ったり舐めたりすることを許せば、聴覚以外は全て揃います。それで、聴覚だけ持っていないことを疑問に思ったんです。物体はボディと他のものとの組合せでできていると思います。例えば、服装、同伴者、風景、荷物、場所、そして音。犬のボディから「わんわん!」以外の音がしていたら「犬とされている/犬のような形の謎の物」になります。犬なら「わんわん!」のはずだけど、「ピー」とか他の音だったら? 鳴き声ではない何かの発信音か何かとなれば? 発信音の出るスピーカーが付いているのか? ロボなのか? その音は何の音なのか? その音が鳴るとどうなるのか? そしてこれは何なのか? というように「何でもない何か」「その場にあるそれでしかない何か」ということになります。ボディ、つまり並べてある物も謎、そこから聞こえる音も謎、という「謎+謎」の組合せでますます謎の物体にしています。そしてこれは私が作った世界の話ではなく実在する状況です。例えば、横断歩道の渡る時の音。その場面にあわせたBGMでもない一定リズムの発信音で、その音に操られているかのように「横断歩道だ」「信号が青だ」という判断になりますが、あの音って一体何でしょうか?横断歩道の風景と、横断歩道を渡る人々と、その謎の音、という謎のセット。(図13)


図13
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宮下:それから、ATMの音。人が真剣な顔をして四角い機械の前に立って、何か操作をしています。機械の前に立ったり、触ったりすると音がします。大きな目立つ音です。その音が数回鳴った後、その人は無表情でその場を離れていきます。あの音は何でしょう? 音がしていましたが、そこで何が起きていたのでしょう? 人の動きと音のセット、音が組み合わさって現れる不思議な光景です。

04 箱の中身について[2]

原田:箱の作品で使われている音は何の音なんですか?

宮下:主にインターネットを見ている時に遭遇した音です。マウスポインターが当たった時や、クリックをしたら音が出るサイトがあればブックマークに登録して集めています。他には生活の中で遭遇した、謎に感じた音です。Ustreamを見ていて、エラーが発生して「ビー」「ガー」という音が出たままになった時はワクワクしながら録音しました。深夜のテレビのカラーバーが映っている「ピー」という音、水道の蛇口からしずくが落ちる音や、プリンターの印刷中の音、ラジオの放送が聞こえない周波数の音、またそれにリモコンを近づけた時の音などです。ポータブルレコーダーで録音することもありますが、最近はほとんどインターネットを見ている時に遭遇した音です。インターネットが生活の中心っぽい私にとって、ごく自然な生活音と言えます。それに、PCを見つめる私、そのPCから出てくる音、それで楽しんだり生活したりしているという状態自体が謎な光景だと思うのです。このように生活の中で、物と音の組合せによって「何これ?」というような謎の光景がたくさんあります。つまり普通の光景なのです。つまり、事実です。製品と同じく、様々な謎の組合せが生んだ光景は誰もがその光景の中にいますし、経験もしています。記憶もあるはずです。それを作品にしているんです。

05 コンテクストとしての設定

原田:この辺りで、宮下さん自身のことも聞いていきたいと思います。まずは、どういったいきさつでアートを始めたかについて、教えて頂きたいのですが。

宮下:高校生の頃、進路希望調査というのがあって、そこで将来何になりたいのか聞かれました。学校の用意した進路希望調査の書類の職業が載っている一覧を見た時に、小さい頃から絵を描くのが好きだったし、その中に入っている職業の中ではどうやらデザインとかそういう感じなのかなということから、芸術系・美術系の大学を受験する方向になりました。「そういう大学の受験には実技力が必要だから予備校に行きなさい」と当時の担任の先生に言われて予備校へ通い始めました。デッサンとか平面構成とか美術寄りなことをやらされました。大学に入りデザインの授業もあって、ジャンルの区別がよくわかっていないけど、考えていることや作るものはアートな風味だった。卒業後デザイナーや工場で製造の仕事もしましたが辞めました。勤務して何かしようとするのではなくて、自分の作品を自分で作ろうという気持ちになりました。そこが「アートを始めた」と言える地点かもしれません。そして今に至っている感じですね。

原田:普段の作品はどういうスタンスで作られているんでしょうか?

宮下:自分には「『美術作品』を作りたい」というような、最初から美術ルールや技法で作る意識が無いです。「ザ・美術!」という感じは無いですね。どちらかというと「道路標識がカッコいい」みたいなことに遭遇したり感動したりイメージが湧いたりすることが、どうも「作品」らしきものになっているスタンスでやっているので、そういう感じを、最近は「自分は美術育ちではない」と言っていますね。美術とかアートとかコンテンポラリーと言われているものが日常的に普通に周りに無い土地で育ち、今も生活しています。生活していく中で、東京とか外国とか、遠い世界の情報が断片的に主にインターネットから入ってくる。なのに、いざ外に出てみるとそういうものは全く無いという環境なので、どこか「遠い世界のもの」という感じです。自分はそういう感じで、アートが無い環境で育ってきたけど、情報ではアートという存在は普通に日常の中にいるらしい。例えば街には彫刻とかいっぱい美術作品があるはずだけど、実際に街に出ても彫刻は見当たらない。街にあるものの中でそれっぽいのは信号機とか道路標識とかそういう物ばかり。だから私にとってはそういう物が彫刻なのかなと思います。(図14)


図14
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宮下:貯水タンクとかを見て、彫刻とかインスタレーションというアートのものとして、それに当たるものみたいに思っていますし感激もします。美術館で展示されているような「ザ・美術!」のものよりも、自販機とか貯水タンクとかビルとかに作品の姿を感じて育ってきているという実感があります。その中で、どうも宇宙的なものが多いという気付きがあります。貯水タンクとかビルの横にある謎のタンクとか、国道沿いにある謎の箱とか、郵便ポストとか。例えば信号機なんて色が変わるだけで沢山の人が動いたり止まったりするし、どうもおかしい。


図15
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図16
20100502(002) (after sunset version)
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宮下:高いビルに登って街を見下ろしてみると、ビルの上には必ず「宇宙船らしきもの」が停まっていて、侵略されているように見えた。しかし多くの人はそれに目も行かないし、こうやって話をしても全然興味を持たれない。侵略者がいることに自分は気付いてしまっているけど、誰に話しても同意しないということはみんな宇宙から来た侵略者側だからかなと思っています。自分がそれに気付いたのは3年前くらいで、そんなふうに何かおかしなものが多いなと思っていて、それを写真に撮ったり人に話したりしていると交通事故にあって、手首を骨折しました。それはそういうことを人に話しているからのようでした。他にも、普通に就職するみたいな発想が持てないことや、美術作品ではなく製品とかに惹かれるところなんかも操られていると思うし、仲良くしていた人と急に連絡が取れなくなってしまう謎の現象も発生しています。2年前にはそれまで使用していたHDがある日突然故障して、それまで保存していたデータが全て消えてしまいました。これらの事実は証拠だから100%は否定できないし、妙に繋がる何かがあると思っていて、「宇宙人(仮)説」と言っています。それらを全部ひっくるめて自分の設定としてコンセプトらしきものにしています。最近になって作品のコンセプトを説明しないといけなくなった時に、整理してみるとどうやらそうだったと判明してしまいました。「自分は美術関係の者じゃなかったんだ」ということが分かりつつも、自分はそれで育ってきているから、今はそれをコンセプトらしきものとしてやっていこうと思っています。だから自分のコンテクストとして、育ってきたものというか、育った環境として、利用しています。

06 アートと言ってごまかされている感じ

原田:普通の発想が持てないという話の「操られている」感じについて詳しくお話してもらえますか?

宮下:自分はそういう何者かによる支配がなぜか利いていないから、違和感に気付けていて、それを指摘していたらある日交通事故に遭った。それは私を阻止しようとする何者かによる攻撃だと思うんです。交通事故も絶対おかしいような不自然な感じで起きたから、交通事故に見せかけて私を捕まえて、手術でボルトを入れたことにして何か装置を入れられたのではないかと。私の居場所や行動を監視するための装置とか。やたら警察が「お前も悪い」みたいに言ってきて、これ以上騒ぎを大きくするのを収めている感じもしたから、それも「宇宙人(仮)説」として考えてスムーズだなと。

原田:ボルトはまだ入っているんですか?

宮下:まだ入ってる。出さずにずっと入れたままらしい。怪しいよね。大きさは3センチくらい。手術の時、怖がったりしないから入れる所を見せてくださいと言ったら駄目と言われて布で見えないように隠された。レントゲンみたいなモニターで入って行くところは見せてくれたけど、それが本当かどうかは分からないし。ボルトを見せてくださいと言っても、なぜかどうしてもお医者さんは拒んでボルトを見せてくれない。結局しょうがないなという感じで一瞬見せてくれた…んだったかな? 何故かそこの記憶が無い(笑)

原田:宮下さんが作品として物を並べたり絵を描いたりすることも含め、制作全体が、そういった設定というか、一つの物語をリソースにしているというわけですか?

宮下:そうだね。それで説明と言うか証明できてしまう。だいたい物を並べたりすること自体を自分でもおかしいと思うからね。なんでそんなものに興味が湧くのかとも思うし、風景の中にあるものが宇宙船とかに見えたりするから、否定できないくらい一致している「何か」に自分で気付いてしまったという感じ。その中で色々と生み出てくるものが「アート」と言ってごまかされているという感じすらする。


図17
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Copyright © 2011 Daisuke Miyashita. All rights reserved.


原田:「アートと言ってごまかされている感じ」がするということは、もしかしたらアートではない……?

宮下:かもしれない、という中でやっている。操られてるし育ちも違うみたいだし(笑)何か分からないけど、使命感みたいなのがあるんだよ。物を作らないといけないみたいな。どうしてこういう感覚が生まれているかだけは本当に分からない。宇宙が出来たのも0.00001秒とかその後からは分かっているのに、生まれた瞬間が分からないらしい。それと同じように、そこの部分は本当に分からない。こんな儲けにもならないし、ましてや周りにも理解されないことをいつまでもやっていることが普通に考えて分からない。東京のことを「遠くの星」って言ってるんだけど、それはそこまで行くと現住所とはぜんぜん違って理解者や作品を作ってる人がいるからなんです。

07 WEBについて


図18
Daisuke Miyashita WEB(http://cassetteb.exblog.jp/
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原田:最近の宮下さんのWEBに注目していて、特に2010年6月頃から始まった写真と短い文章がセットになったシリーズが気になっています。そのシリーズには必ず「どこかで撮った写真。どこかで遭遇したこと。」という短い文章が添えてあります。文章とセットになる写真のモチーフには人工物ばかり選ばれていて、それが町に与える違和感というか、背景となる風景との違和感に注目して切り取られていて、写真のモチーフは一目みて特定できるものが多く、宮下さん自身の作品との類似性も発見できます。まずは、そういったモチーフを選ぶ基準などからお話して頂ければと思うのですが。

宮下:やっぱり宇宙的なものが多いというか、この日常空間のものではないものというか。例えばこれって一応貯水タンクと言われているけど、そうとも限らなくて、宇宙船って言った方が説明が通らないかとか、エヴァンゲリオンの使徒みたいな物体と言った方がスムーズに感じるとかいった物が街にチラホラしているので、そういう違和感のあるものを撮っています(図19)。写真って証拠になるじゃん。だからそれを毎日重ねて行くと分かってもらえるのかなと思って。日頃から考えていることを表す手段としてあのWEBはやっていますね。


図19
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Copyright © 2011 Daisuke Miyashita. All rights reserved.


原田:モチーフと同じレベルで、貯水タンクなら貯水タンクの背景となる風景がどういう風に機能しているか気になっています。それはWEBの写真で言えばそのまま後ろの「背景」のことで、物を並べる作品になれば平面的な「地」のことで、立体になれば作品が置かれる「場所」となるわけですが、すべてに共通する機能があるように見えます。


図20-1
20100106
Copyright © 2011 Yuki Harada. All rights reserved.


図20-2
20100106
Copyright © 2011 Daisuke Miyashita. All rights reserved.


原田:最初にそう思ったのは、『20100106』の制作過程をライブで見ていたときで(図20-1、図20-2)あの作品は宮下さんにしては珍しく迷彩柄のコンクリート地の上に直接置かれていました。もう一つは、岡山で作った作品(図21-1,図21-2)で、そちらも地面の上や家屋の中に直接物が置かれていました。どちらも例外的に地が「白くなかった」わけですが、並べられる物は元々道ばたや日常生活の中から宮下さんが見つけた物で、それが「整理されて」宮下さんの作品の設定とも言える「元あった場所」のような環境に還元されていったように見えて、驚きました。


図21-1
20090612-21(008)
Copyright © 2011 Daisuke Miyashita. All rights reserved.


図21-2
20090612-21(013)
Copyright © 2011 Daisuke Miyashita. All rights reserved.


宮下:貯水タンクの場合で言えば、どこからかやってきて、普通の街や住宅地の中に着陸しているとか、ビルの上からこっちを見ていたり何か狙っていたりするような感じ。その感じでギャラリーや美術館という展示場所に着陸している感覚です。立体作品になるものは、作動しているマシン、宇宙船的なもの。並べる作品になるものは、置き手紙のようにポンっと落ちていたり、仕掛けられて現れたりするようなものという感じ。立体の方はまだ動いていて、どこかからやってきて展示場所に出没した感じ。だから背景は日常の風景のまま。並べる作品の背景が白いのは「採集」したものを標本のようにした感じだからです。『20100106』(図20)と岡山で作った作品(図21)については特別バージョンです。最初の頃、外部からサンプリングして作品が新しい方へ展開したように、何かキッカケがあれば、音楽でいうライブバージョン的に現場に対して即興的にやってます。新しい展開が生まれる貴重なチャンスだと思うので、厳密にコンセプトと照らし合わせて理由付けして断るのではなく、受け入れて実行しています。アウェーな状況でやることで明確になることもあると思っています。先に言った立体作品の「どこかからやってきて着陸した」感覚にもなりますね。原田くんの言うように「元あった場所」へ着陸した感じもしますね。

08 「遭遇」「誰か」「スタート地点」

原田:それと気になっていたのが、毎回添えられている文章「どこかで撮った写真。どこかで遭遇したコト。」の中の「遭遇」という言葉です。これは宮下さんにとってどういう意味なんでしょうか?

宮下:私が追跡したわけじゃなく、向こうから現れた感じです。コンスタントに出現するから怪しいんだよ。私は見つけるぞと意気込んで出かけていなくて、遭遇したら撮るという感じ。私に見せるようにワザと現れているんだと思う。「好きな女の子に好きになってもらうためには、いつもスケボーに乗ってでっかいぐるぐる巻の飴を持ってその子の前をチラッと通ることを毎日やる。それをやっていたらだんだん相手はこっちのことが気になってくる」という作戦のお話を、大学の時の心理学の先生がしてくれた。その話かのように、何かチラチラ、誰かが私にワザと見せてるんです。それで何かに向かわせている。誰かに仕掛けられた「遭遇」です。それも頻繁にあんな変な物に出会うんだから。だってあの宇宙船みたいなのってわざわざ見つけてくるか作るかしないと無いくらいのキャスティングだと思う。

原田:普通にしていると見つけられないですよね。

宮下:そう思うよね。それに他の人は見つけてないでしょ。「あそこに変な看板があって、何故か真っ白なんだよ」とか「あそこにカッコイイ宇宙船がいた」とかそういう話題は出てこないし、「あるある」と言ってくれる人は滅多にいない。

原田:「遭遇」と同時に、「誰か」に操られているとか、「誰か」が仕掛けてきているとか、そういう「誰か」という言葉も気になったのですが。

宮下:たぶんこれは育ちに影響されているのかも。自宅にあったゲームはファミコンで、まわりからかなり遅れて、高校になってからスーパーファミコン。持ってたソフトは少なくて、『ギャラガ』『ツインビー』『スターソルジャー』みたいなシューティングゲームをよくやってた。『ドラクエ』とか『FF』もちょっとだけ。敵を倒して最後にボスがいるパターン。あと「敵」という存在とそのデザインやイメージに影響を受けていると思う。他には、映画はほとんど観ないけど、観たら衝撃が強くて、自分が観た映画には強く影響されてると思う。『スター・ウォーズ』『プレデター』『ターミネーター』はテレビで観た。『インディペンデンス・デイ』『マトリックス』は映画館で観た。いや、その前に、戦隊モノやメタルヒーローだ! よく観てた。トランスフォーマーも。そっちだな。「悪者が現れて何かしてきて、やられそうになるけど最後に倒す」みたいな流れを植え付けられて、自然な発想としてそういう流れが出てくるんだろうと思う。そういう風に、話を仕向けているというよりは、自分の育ちという自然現象を基に考えている。自然現象で、「誰か」がいるんじゃないかという発想が最も自然かと。

原田:『新世紀エヴァンゲリオン』で言うところの使途だとか、もっと古くはゴジラとかにもあるように、どこからか敵が発生して来襲してくるという構図は特撮などで伝統的にありますよね。

宮下:そうだね。「カッコイイ」ものへのあこがれもそこからかも。ちょっとだけ脱線させてもらうと、作品を説明してくださいと言われてみんな普通に説明しているけど、そこの出所が分からない。いきなり「自分は何々だと思っていて」から始まるけど、でもその本当のスタート地点というのがぼんやりしている。怪しいよね(笑)

09 定型性について

原田:宮下さんの作品で、ドローイングやWEBの写真の場合はとても「定型化」が強いように思います。WEBの写真もどこか分かりそうで分からない、平均化された風景が写っているようです。

宮下:そこで「事実」だと。自分が作ったフィクションではないというか、他の人が見ても「ああ、これビルの上にあるあれでしょ」ってその物の情報が特定できるでしょ。


図22
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原田:SF的な世界観だけど、演出が行き過ぎてない世界観だと思っています。

宮下:そこは守ってるね。自分で作り物を作っちゃうと嘘になる。フィクションになるから、紙コップだって「もっとこうした方が」って変形させたり独特なデザインのものを使ったりしない。ごく一般的な「普通」なやつを使う。自分ができることは事実の範囲内で、撮影のときにカメラのアングルを変えるとかくらいしかない。


図23
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宮下:だから、この紙コップの作品(図23)なんて本当にくせ者だったよ。あんまり上から撮って、上の面のアウトラインが正円に近付くと「デッサンが狂っている」とか別の発想を生んじゃうので、けっこう低めから撮って、ちゃんと歪んで出っ張っているところも写るようにして、且つこの下の部分も違和感がないところまで。だから一つのモチーフに対して素材の写真を結構撮ってる。

原田:この作品では何枚くらい撮ったんですか?

宮下:50枚くらい撮ってるね。何枚か撮っているうちに一枚くらい良いのがあるかな、という感じだから。その次にアウトラインをトレースする作業があって、そんなに良いカメラじゃないからA4まで大きくするとぼやけるんだよ。だから、白の色鉛筆とかで影を消して線を浮かび上がらせる。それで、トレーシングペーパーでアウトラインを取って行くから、ちゃんと見える形がズレていない写真を撮らないといけないので、たくさん撮ってる。だから「こう撮ったら良いだろうな」と思っても、その中でどれか一枚良かったら良いという感じで。写真が上手くならないといけないんだけどね(笑)

原田:どのモチーフも定型化されているから自然体な感じがするし、広告っぽく見えますね。

宮下:だよね。ニュートラルというか特に主張や演出が無い証明写真のような。図鑑とかカタログみたいな、特に主張をしてないというのが好きなんだよね。私の生み出した作り物を見せたいって言うのではないからってのもあるね。見てる人それぞれが詳しく知ってるくらいの事実を使ってるから、独特性は無い方がいいんだよね。誰もが「ああ、あれね」ってなる物を使えば、PCのショートカットアイコンのようにワンタッチで多くの情報が伝わる。

10 遠くの星


図24
東京タワー


原田:ところで先ほど質問にお答え頂いたときに、東京のことを「遠くの星」と仰っていましたが、それはどういうことでしょうか?

宮下:東京タワーに行ったときはすごかったからね。フォースがすごくて死んでしまうかと思った。遠くからでもすごいパワーがビシビシと来る。だから、本当に俺はあそこから寄せられてるんじゃないかと思ったり。でも太陽みたいなもので、実際に近くに行き過ぎたら死ぬ。震えがくる感じだったからね。中に入ったときは変な感じがして。最上階にある、通常よりさらに高い展望台には行けなかったからね(笑)あそこはコアだから行ったら大変なことになると。ぞくぞくした。それと新幹線に宇宙感がある。やっぱりある程度距離と景色の変化がないと宇宙感はしないと思う。広島から出ると最初は山や田畑ばかりで、だんだん都市になってくる。だんだん電車が増えてきて、ビルがでかくなって、気が付くと山は見えなくなってくる。そして東京まで行ったらもうすごい。別世界。新幹線で東京駅に入って行く時なんかは宇宙ステーションに入いっていくみたい。ビルの間を抜けてスーッと入って行くところとか。『銀河鉄道999』を見ていて「これだ!」って思ったからね。あと、ラフォーレとか109とかはテレビやネットの中の存在ってイメージだからヴァーチャルなものとして感じる。「ホントにあったんだ!」みたいな。ゴジラに踏みつぶされるセットのような物になっているね(笑)夢とか希望の星のようなんだよ。アートもあるし理解者もいるし。別世界。同じ星とは思えないからね。

11 プレイヤーとして


図25
20090515
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原田:このサイトは多くの学生も見ています。それもあって宮下さんにお聞きしたいのですが、どうしたらプロのアーティストになれるのでしょうか?

宮下:考えることを呼吸しているのと同じくらいする。苦しいくらい考えて、いつも考えて、疑問を持ち続けて、やり続けること。それをたくさん持っているべきかと思う。何か探求者的であって、それの発表として作品が出てきているというイメージが私にはあって、何もないのに作品は発生しないと思うんだよ。そういうことは習って解決するものじゃなくて、自分でいっぱい考え続けることだと思います。だから受験勉強とか授業で習ったことも、否定しなくてもいいけれど考えるというか、与えられてそのまま終了しないことが大事と思います。あと息を切らさずに、無謀にでもやり続けること。

原田:それでは、アーティストを支える立場の人に対してはどういうことを求めますか?

宮下:自分でもああいう立場の人たちが不思議で……。運営するとか場を作るとか、プレイヤーにならずにそういう位置に徹するというのがすごく不思議で、勿論あのポジションの方達に助けてもらってもいるんだけど、一度プレイヤーになってくださいというのがあるね。場ばかりがあるというのがわからないから、プレイヤーになって下さいと思います。作品制作側の活動を体験してもらいたいなと。

原田:表現活動は基本的に供給過多で、それを行うアーティストはリスキーな存在ですよね。これは漠然とした質問ですが、今の時代にアーティストはどのように立ち居振る舞うべきでしょうか?

宮下:自分のやっている活動や美術とは何かと聞かれたら「社会への参加方法です」と言っているんだけど、社会の中のひとつとして立ち振る舞うべきだと思いますね。「芸術家だから」って特別な者、変わり者扱いされるのもどうかとよく思います。実際、奇抜とか不思議とか意味不明な生き物に見られてる感じですが、まずは社会の中の一人だと思うんです。だから質問には答えたり、分かってもらえるようなアプローチや、挨拶、マナーなどは丁寧にと心がけてしてますね。もちろんわかりやすい作品やウケのいい作品を作るなんてことではありません。対応の仕方です。私の中で「ウルトラマンになりたい!」みたいな感じで「アーティストになりたい!」というのがあります。私にとってアーティストはカッコイイヒーローなんです。おもしろい発想で大きな感動を生むすごい存在なんです。だからそんなふうにカッコよくもあるべきかなと。

原田:社会の中で求められているアートについてお聞きしてもよろしいですか?

宮下:いろんな作品や作家さんが存在しているけど、実際は許されるものとそうでないものがあります。作品で言えばお題が決まっている。「美術」といえば社会問題とか孤独とか愛とか自然愛護とかそういうメッセージ系のものが一般的というか。その中のどれかでないと駄目という感じ。そういうものだと思っている人口は多いと思います。だから自分のことで例えれば、貯水タンクとか怪しいって発想を持っただけで気持ち悪がられるし、そういうチャンネルの少なさも感じます。そういう受け皿がないというかね。許されているもの以外はルールに反してしまうのかなと。ルールがあると思ったね。もちろん特定のジャンルだからルールや定義はあるんだけど、同じ現実空間の中にあって「ああ!」とか「おお!」となるような、ふわふわの雪を顕微鏡でみたら雪の結晶だったみたいな、発見であり感動であり驚きでもあり、謎や興味でもありという。衝撃的で圧倒的な。そういうものかな。宇宙かな(笑)

(テープ起こし:原田裕規)


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