コメント
「アランの毛糸帽子会議」。そのタイトルを聞いたときから私はわくわくしていました。なぜアランなのか、なぜ毛糸の帽子なのか、そんなことも分かっていないときでしたが、その暖かな優しい印象を受けるタイトルに心を奪われていたのです。
ただ実際準備が始まると、楽しいだけの作業とはいきませんでした。初めての作家担当ということで緊張していたということもありますが、ギャラリー内に暖炉をつけるためには煙突が必要で、しかもその煙突は5階まであるビルの屋上より高く設置する必要があったのです。本当に火をつけることができるのか、煙突に関して何も知識のない私は大した手伝いも出来ず、出月さんが無事設置を終えられる日を待っていました。ただ出月さんは以前にも暖炉を使った展示をされていたので、煙突は無事に取り付けられました。残すは暖炉との接続です。大阪から業者の方に来て頂いたのですが、煙がちゃんと上に登っていくか、その心配がありました。そのため暖炉に火が灯った瞬間、外の寒さも忘れ、本当に誰もがその火に釘付けになったのでした。
暖炉に火が灯り、展示の終わったその空間は、ギャラリーというよりも、そこがビルであることを忘れてしまうような、まるで本当の山小屋にいるかのような安らぎのある空間になりました。その空間に足を踏み入れ、安らぎを感じた方も多いはずです。常に形を変え、色を変え、私たちの体を外から、内から温めてくれる火をみながら、それまでの作業の大変さも忘れ落ち着くことができました。
展覧会中は中村好文さんがデザインされた可愛らしい子どもサイズの椅子に座り、ストーブ型暖炉を使ってスープを温めたり、チーズフォンデュをしたり、出月さんの作り上げた空間で、日々さまざまな物語がうまれていました。
そのような物語りも含め、今回は出月さんの願う通り、訪れた人の印象に残る素敵な展覧会になったと思います。そして、その展覧会にスタッフという立場で準備からお手伝いすることができ、貴重な時間を過ごすことができたことを嬉しく思います。
(戸田歩 アシスタントキュレーター)