culture power
artist 早川祐太/Hayakawa Yuta









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イントロダクション

それは、私達のすぐ近くにある筈のもの。意識下に現れないもの達は、しかし確かにそこに存在している。  

2010年6月から早川祐太の初個展がギャラリーαMにて行われた。白い空間の中に点在する作品達は、しかし、一つ一つがばらばらに自身を主張するのではなく、静かにその空間全体を満たしている。まるで密やかな生命のざわめきに満ちているようであった。  

早川の作る立体作品は、一見すると何かの装置のようである。それは動き、循環し、あるいはじっと静止する。しかし、彼が作る作品は、その「もの」自体だけでは決してない。彼が生み出すものは、むしろ目に見えない世界の現象なのだ。  

例えば〈apple〉という作品がある。高速回転する水の入ったペットボトル。一見すれば、早川が作ったものはその回転する物体なのだが、しかし、彼が本当に表したかったものは、回転によって生み出された不可思議な空気の形が示す、重力の存在であった。ニュートンがリンゴの落下によって、重力という不可視の存在に気付いたように、私達はその作品から、目に見えない現象の存在を感じることになる。  

重力、浮力、遠心力。言葉にしてしまうと、随分理知的な印象であるが、しかし彼はそれらの現象を至極感覚的に捉え、表現している。小難しい方程式などわからなくても、それは私達の生きるこの世界で「当たり前」のことであり、しかし「当たり前」だからこそ、見えにくいものなのだろう。この世界に溢れる現象は、ただそこにあるだけなのだ。だからこそ、彼の作り出す作品は、いつも不思議な親しみと、しかしどこか近寄りがたい清廉さをたたえている。    

早川の作り出す宇宙空間では、今まで見過ごされてきた「美しさ」がゆっくりと立ち現れてくる。彼は世界の「美しさ」をそっと掬い上げているのだ。だからこそ彼の作品はその場だけで完結するものではない。作品によって、この世界そのもののあり方に出会った時、私達のすぐ近くに、早川の掬いあげる「美しさ」がひっそりと、しかし確かに存在していることに気づくだろう。    

(當眞未季