Cultre Power
NPO REALTOKYO
contents

01
02
03
04
05
06
07
08
09









Copyright © Aomi Okabe and all the Participants
© Musashino Art University, Department of Arts Policy and Management
ALL RIGHTS RESERVED.
©岡部あおみ & インタヴュー参加者
©武蔵野美術大学芸術文化学科
掲載情報の無断使用、転載を禁止致します。

インタヴュー

小崎哲哉(発行人兼編集長)×岡部あおみ、佐藤美保

日時:2003年7月18日
場所:(有)小崎哲哉事務所

01 REALTOKYOをつくるまで

岡部あおみ:小崎さんはREALTOKYOを手がけられる以前は、主にどんなお仕事をなさっていたのですか?

小崎哲哉:女性誌の編集から始めまして、確か1984年か85年に新潮文庫編集部で若い人向けの雑誌を作るために、新潮社に途中で入社し、89年に『03 TOKYO Calling』雑誌を創刊して、当初は、そこの副編集長として編集部で仕事をしていました。その後新潮社をやめて他の出版社、講談社の情報誌作りのプロジェクトに外部ブレーンとして参加したりして、その後、今の小崎哲哉事務所を設立、デジタル関連の仕事としては歌舞伎の百科辞典的なCD-ROMを作ったんです。それが94年くらいです。更に96年にご存知かと思いますけれどもインターネット・ワールド・エキスポがあり、日本ゾーン・テーマ館「センソリウム」のエディトリアル・ディレクションをやり、インターネットを知る契機になりました。

佐藤美保:REALTOKYOを立ち上げられた趣旨を簡単に説明していただけますか。

小崎:簡単に言うとそれまでこういう媒体がなかったからということに尽きますね。僕自身、映画や音楽やアートやステージパフォーマンスが好きで、そういったものを見る時に例えば『ぴあ』みたいなものを使っていて、『ぴあ』は今もすごく良い有効な媒体ですが、情報誌がチケットサービスと結びついた段階でどうしてもビジネスの論理が最優先される。例えばアート・イベントはギャラリーでやっている以上、普通はそれだけではお金は発生しない。となると、どうしてもチケットサービスに結びついた情報誌では、ないがしろとは言わないまでも扱いがやや薄いかんじになってしまう。そこでそういったものをきちんと取り上げられる媒体が欲しいと思ったのが1つです。
それからもう1つは昔からさんざん国際化ということが言われていますけれども、ご存知の通り実態はかなり寂しい。例えば外国の方や日本語の分からない日本にいらっしゃる方々がカルチャー情報を得ようと思うとまだ相当難しい。そういった現状に対して英語と日本語のバイリンガルの媒体をつくることで何か一石を投じてみたかったということです。

100年の愚行 photo REALTKYO

02 メディアとツール

小崎:その際にREALTOKYOのパンフレットにも書いたんですけど、僕らが作りたいと思ったのは、1つは批評とは言わないまでもある程度我々が言いたいようなことを言えて、あるいは僕らが信頼をおける執筆陣に原稿をお願いしてその方にご自分の意見を言っていただく。それを称して「メディア」と呼んでいるんですけれども、更にデジタル技術を生かしていわゆる「ツール」、本当に使える道具、本当に都会に暮らしていてそういったカルチャーイベントに興味を持っている人たちにとって使い勝手がいい「メディアとツール」を作りたかったんです。ですから、前の「メディア」部分についてはまだ紙媒体とあまり変わらないけれど、「ツール」に関しては、例えばこのサイト自体が備えている検索機能もそうですし、スケジューラーとリマインダーも、言ってみれば個人的な手帳のように自分が行きたいと思ったイベントをウェブ上にメモをしておける。ただそれをメモしておくだけではつまらないので、メモした内容を週一回Eメールでお知らせしてくれるのがリマインダーです。
例えばパフォーミングアーツですとか、コンサートは普通は前売り券を買うのであまり忘れることはないと思いますが、長くやっている映画や美術展の場合、いつでもいけると思っているけど、ふと気が付くと会期が終了していることがある。僕は忘れっぽくて、今まで良いものを逃したことがかなりあります。それをなるべく減らす為にこういうのがあったらいいなと思ったんです。やっとこうした時代になって優秀なプログラマーがいて、彼らに作ってもらえました。更に言うとREALTOKYOは各種のイベントの主催者が自分でその情報を無料で登録出来るシステムを備えています。我々は寄せられた情報が、ガセネタだと困るので情報が正しいかどうかはサッとチェックはしますが、基本的に、審査はせず全ての情報が掲載されます。今まで実際に断った情報はない。つまり、ハリウッド制作のブロックバスター的な映画も載れば、無名なアーティストのグループ展や、アマチュア劇団の旗揚げ公演も同時に載せられるといったことです。これは、ワールドワイドウェブ、あるいはインターネットウェブが、よく脱中心とか言われますけども、要するに縦の権力構造がないことだと思うんです。僕らもそういう媒体でありたいと思って、みんなの力でコンテンツを作り、それが全体的に集まることによって、みんなが享受できる、楽しめる、使える媒体になればいいなと思って作った仕組みです。

ARTiT photo REALTOKYO (2)

03 アクセス数とユーザーについて

岡部:スケジューラーとかリマインダーはかなりの人が使っているのでしょうか。

小崎:そうですね。今、メールマガジンの登録者が5千人くらいですから、5千人以上の人がスケジューラー登録をしているわけです。つまり、スケジューラー登録しないとメルマガをもらえない仕組みになってます。

岡部:これまでのアクセス数の推移は把握していらっしゃいますか。どの程度あります?

小崎:月間で今は約100万ページビューを越えたぐらいです。ただ、この数は何ページ見られたか、つまり見にきた人が、トップページから入って次のページに移ってもカウントされますので、ユニークユーザー、つまり実際にどのくらいの読者が見ているかは、分からない。だから例えば平均一人が5ページ見てるとしたら、月間に20万人の人が見ていることになり、10ページだと、月間10万人。ただし、そこには当然リピーターもいるとは思います。

岡部:一人の人でも、頻繁に使用して見ている人もいるかもしれないですね。

小崎:数万人の下のほうですかね。最近の出版状況は悪いですから、売れてないカルチャー雑誌よりは多くの人にご利用頂いているかなとは思いますが。

佐藤:最近、随分使わせて頂いているんですが、先日の日曜にあったパルコキノシタさんのイベント情報も始まる前からレビューが載ってたので、面白そうだなと気がひかれました。

小崎:ええ、多分パルコさんのイベントはあんまり情報誌には載ってないんじゃないかと思います。今、ああいう小さいアート・イベントはかなり情報が入ってきますので、そういう情報を拾っていけるのは僕らも非常に嬉しいです。

岡部:ぎりぎりイベントの前の日でも載せて頂けるといった、ネットによる即効性とフレキシビリティを活用なさっているのは、すばらしいことですね。

小崎:ありがとうございます。時々ぎりぎりもありますね。なるべく早く載せたいんですけど。

岡部:そういう部分では何か救いの神的感じもありますね。イベントの当事者は内容で手一杯で、最後まで広報に回れないということも、ままありますから。

小崎:ただ今一応、日曜から金曜で土日祝日はお休みを頂いているので、時々金曜日に連絡があって明日パーティーあるからって言われるとちょっと無理なんですけど。

04 REALTOKYOの原稿料

佐藤:コラムとかいろいろあるんですが、読者からの意見を聞いて作ったものもあるのですか。

小崎:いや、それはないです。編集会議でみんなで話をして、この人に頼んだら面白いんじゃないかとお願いをしてます。それから今、運営状態が厳しい、はっきりいって赤字なんですよ。原稿を書いて頂いている方々にはものすごい薄謝なんですけれども、原則的に一応原稿料は支払おうと思っている。ただ、全ては無理なんで、情報掲載によって、その方あるいはその方が所属している団体が何かメリットがあれば、ご相談して無料で書いて頂いたりしてます。かなり苦肉の策ですが、「東京編集長日記」と「TOKYO仕掛人日記コラム」では、今、カンバセーションという大変すばらしいパフォーマンスのプロモーターがあり、そこの前田圭蔵さんと水戸芸術館の学芸員の窪田研二さんにお願いしていますが、お二人ともご自身の活動を書くことを通して、カンバセーションや水戸芸術館のプロモーションにつながるということで、本当に申し訳ないんですけれども、無償でお願いしてます。

岡部:有償の場合も薄謝とおっしゃっていましたが、紙原稿よりはるかに安いということですか。

小崎:媒体によります。文献集よりは高いと思いますけど。美術雑誌の原稿料って僕よく知らないから。別に隠す必要もないので言ってしまえば、250字のコラムは1本2000円です。

岡部:取材経費などを抜いて、原稿の字数だけでいえば、そんなに安いとも思えませんし、支払っているだけでも偉いですね。

小崎:支払わないと僕が嫌なんです。

岡部:支払い関係がないと、馴れ合いでダラダラしてしまうかもしれませんし、何かこうピシッとする要素がなくなってしまうかもしれないですね。

小崎:結局そうなんですよ。

岡部:編集者と著者という境界が明確になるという是非はあるけど、それがないと何でも書いていいみたいにダラダラする可能性があって良くないし、質をキープしたいでしょうし。

小崎:原則的に大丈夫な方にお願いしてますし、あんまりいばれるような原稿料じゃないんですけど、こちらからこの原稿こういう風にして欲しいという要望を出せますから。

岡部:ネットの場合、原稿の長さは大体250、500字の単位で考えていくのですか。紙原稿は原稿用紙で400、800字勘定ですが。

小崎:僕らの経験に基づいたものでしかないんだけれども、大体250字が見やすいかなと。それから、いわゆる他のコラムは1000字から1200字を目安にしています。日記は少しヴォリュームがあった方がいいので一応2000字。インタヴュー原稿はもう少し長く、3000から4000字くらい。これは3ページとかに分けて、1ページ1000字から1200字くらいで作っています。

岡部:字数が多い場合は、原稿用紙2枚ちょっとで1万円になるわけですから、悪くないですよ。

小崎:そうですね、それは。

岡部:紙媒体で、長い原稿の場合、10枚でも全部で2、3万円ということだってありますから。

小崎:ただ基本的に、原稿料の払い方って2通り考えなきゃいけないですよね。つまり、副業の方はご相談して安くしていただくこともありうるとか。

岡部:そうですね。インディペンデントでライターをなさっている方々は大変ですし、今、多くなってますから。

小崎:そうなんですよ。だから、出版社にいた時にフリーランスに対して会社側が強圧的だったりするのが、ものすごく嫌でした。出来れば、この媒体もなるべくお金儲けをして、いい原稿料を支払いたいんですけど、なかなかそうはいかない。

05 コンテンツの横断性

佐藤:REALTOKYOの変遷についてお聞かせ下さい。今、たくさんコラムがありますが、立ち上げた時はどんな形だったんでしょうか?

小崎:似てますね。当時は、ドラァグクイーンのマルガリータさんと、最近『ドルチェ・ヴィータ』という本出した貞奴さんという詩人の2人の往復書簡連載コラムをやっていましたね。それから「ビフォア アンド アフター」コンテンツがあり、これは何人かの目利きの人たちにREALTOKYOで取り上げたイベントについて見る前の期待値と見た後の満足値の星取りをやってもらうものだった。ただ全ジャンルを横断して全てを見られる方がなかなか居なくて、それぞれの方の負担が大変な割にコンテンツとしてはあまり面白いものにならなかったので途中でやめました。その代わりに、遊びですけども読者が投票出来るシステムを作ってそれを残してます。それが大きな違いですかね。コラムはその都度書き手が変わったりしてますけども。

岡部: 見る前の期待値と見た後の満足値の星取りって、おもしろい構想だとは思いますが、結局、プレスリリース見ただけでの期待値は未知数だし、実際にきちんと見てはじめて評価できるという実見評価のせいでしょうね。

小崎:それ以上に、僕が期待していたのは映画を見る人が演劇も見るし、美術館も行くし、という横断性だったのですが、でも、やっぱりご専門の部分に偏ってしまう。なかなかあらゆるジャンルを横断して見ている人が少ない。

岡部:REALTOKYOの場合は、さまざまなジャンルがいわば平等なアクセントで情報掲載されていて、編集サイドでは、今小崎さんが話された横断性を考えていらっしゃるのはよくわかるのですが、ただ実際には難しいのですね。ジャンルの横断が出来ないのは、日本のウィークポイントかもしれないですね。

小崎:イベントがたくさんあるわりに、時間がないんでしょうね。

岡部:いろいろな意味で余裕がまだあまりない社会かもしれません。

小崎:社会もそうかもしれませんけど、単純に例えば演劇が大好きな人はシーズンだとほとんど毎日会ったりする。結局、昼間働いていて夜見るしかないとなると他のジャンルまで手を伸ばしている余裕がない。今、アート展も全部見ているとそれこそものすごく大変なことになりますよね。

岡部:そういう意味ではすごく恵まれているとも言えますが。

小崎:そうかもしれないですね。

06 サイトは無償という壁

岡部:2003年にREALTOKYO をNPO法人リアルシティーズになさってからの具体的な運営状況はだいぶ変わってきていますか。基本的にはどこかが運営のサポートをしてくださっているのでしょうか。

小崎:立ち上げ当初は、当時の通産省が、簡単に言うと、ITベンチャーに対してお金を融資してくれるシステムがあり、資金を頂いてプログラムを書いたり当初のコンテンツを作ったりしたんです。当然ながらそのお金は1年くらいで使い果たしてしまい、その後は広告収入で費用をまかなう形に変えました。今のところレギュラーでアサヒビールが応援して下さってます。それともう1つは家庭画報国際版が出来て、そこのウェブサイトが国際版なので英語ですけども、我々が英語の情報を提供している。それは、僕らがアップデートした情報をほぼリアルタイム、厳密に言うと1日に一回データーベースから情報を吐き出して先方のサイトのデザインに合わせた形でアウトプットするもので、これを毎日提供することで代価を頂いている。この2本が大きな資金的柱ですね。あとは、そういったレギュラー以外に単発でバナー広告が入ったり、メルマガに広告が入ったりすることが時折あるけれども、まだまだ少なくて全体をまかなう形には至ってません。

岡部:となると、何か他の仕事で得た収入を個人的に投入しているということですね。

小崎:そうですね。

岡部:それは厳しいですね。

小崎:厳しいですね。厳しいよりも不健全なので嫌なんですよ。利益は生まなくていいんですけど、ちゃんとトントンでまわっていくような仕組みを早く何とかしたいと思ってます。

岡部:実際に、例えば他の国や日本の他の地域などで、こうしたウェッブ媒体で、広告収入やサポート資金のみでまわっているような情報サイトはあるのでしょうか。

小崎:どうなんでしょうね。Yahoo!とかすごいでしょうね。まあ、そういう巨大サイトは別でしょうけど。あんまりない風に言われてます。以前に REALOSAKAという別の媒体がありまして、それは関西エリアの文化情報を僕らが首都圏でやっているような形で、大阪の彩都メディアラボが母体になってカバーしてたんですが、やっぱりお金を生まないってことで見直しが図られて今ストップしているんですよ。

岡部:そうなんですか。最近ですよね。

小崎:ええ、2003年の3月末までです。ちょっと悲しいですね。

岡部:REALTOKYOがそうなったら本当に悲しいですね。展覧会やイベント情報を掲載していただいたりした経験がある私自身としては、とくに。会員制とかでやっても、これがまたなかなか会員が集まらないという話はよく聞きますね。

小崎:最初は考えたんですけどね。1つには課金のシステムづくり自体が意外にお金がかかって面倒くさい。それ以前に今やっぱりインターネットはタダだふうにみんな受け止めているので、なかなかお金を払ってくれない。だからちょっとためらいますね。

佐藤:あと、NPO化されたことについてお聞きしたいんですけど、どういう理由ですか?

小崎:実は、何か良く分かってないんですよ。

岡部:最近は芸術文化のNPOが急に全国的に増えてきましたね。少し前までは全然なかったんですが。

小崎:そうですよね。僕らがアートNPOなのかどうかの問題もあるんですけど、メディアなので、他のNPOとはちょっと違うんじゃないかなって気もしている。ですからNPO法人申請の時もミッションとしては、芸術文化を促進するみたいなことで申請した。登記が終わったのが5月末で最終的に6月20日に完全申請したんです。最初にいろんな人にご相談して、すぐにメリットは期待しない方がいいと言われて、ただどっちにしろ営利事業にはならないと思ってますんで、性格からしてNPOの方がむいてるんじゃないかなと思ったのが1つ。それからあとは、自治体から何かお話が来た時に受けやすいということ。

岡部:信頼度ですね。

小崎:そうですね。それと企業にサポートして頂く場合にもこちらがNPOの方が先方にとっていいんじゃないか。それ以上に、ある人がアドバイスしてくださったのは、NPO法人をつくると当然役員会が必要になり、いろんな理事の方をお願い出来ると。これらの外部の方々に有形、無形の援助をして頂けるし、お知恵拝借が出来るのがいいんじゃないかと。なるほどそうだなと思って比較的懇意にさせて頂いている方々ですけれども、役員になってもらって会議をやっては叱咤されてます。

岡部:NPOだから協力しましょうと、みなさんボランティアでやってらっしゃるわけですよね。

小崎:そうですね。本当にいろんな方々のご意見が頂けるのはいいと思います。

岡部:どんな風に叱咤激励されているんですか?どういうところを叱咤で激励はどこを?

小崎:ほとんど叱咤なんですけどね。それを激励として受け止めなければいけないな。要するに運営も自助努力でもっと頑張りなよって言われました。中身がいいんだから頑張っていけば、これ自体がお金を生むような仕組みを絶対作れると。

07 リアルなREALTOKYO

小崎:REALTOKYOはウェブ上のいわばバーチャルな媒体ですが、リアルなイベントをやってもいいのかなと思うんです。今までREALTOKYO BARの形で、ちょっとしたイベントを伴ったトークショーですが、8回程やってます。我々が主催をするカルチャーイベントがあってもいいんじゃないか。現状ですと、助成金などが、メディアとしてのREALTOKYO に与えられるケースはほとんどないと思いますが、実際のイベントを主催すれば違ってきますので、少し道が開けるかもしれないと思うんです。

岡部:開催なさったイベントには、どれくらいの人数が参加なさっていますか?

小崎:あ、もう全然違いますね。川口隆夫さんのダンス公演の時には、プロのプロデューサーがついて下さっていたので、2日間で300人くらい。あとは単発のイベントで僕らがやった時に一番多かったのが120人ほど、一番少なかったのは川崎の小さな本屋さんPROGETTOでトークショーやったんですけど、9人でした。

佐藤:以前ZONEの方で、ショップを出されてたって聞いたんですけど。

小崎:それは、REALTOKYO MARKET(実東京市)のタイトルでやって、あの当時、音楽ページを担当してたスタッフが頑張ってくれた。我々が音楽ページで扱うCDタイトルには、インディーズのものが圧倒的に多い。こういったものはなかなか一堂に会して売られることはないので、そういった方々に声をかけて300か400タイトルをまず集めた。それ以外に、ABCとタイアップしておすすめの本を並べたり、Theater PRODUCTSとかmountain mountainの雑貨とかニブロールのものとかもお願いした。さらに、観賞用の植物や有機野菜の八百屋さんまで入ってくるショップを2日間やりましたね。楽しかったです。

佐藤:どれくらい来場者がいましたか?

小崎:あの時が2日で400人。

岡部:でも、やはり今なさっている仕事の中心はウェッヴサイトのREALTOKYOですよね。

小崎:そうですね。作業量的にはREALTOKYO。お金的にはこれが最低です。

岡部:バランスがよくないですね。更新などの作業は何人でなさっていらっしゃるのですか?

小崎:スタッフは今4.2人。今ここにいる村田の他に、ドイツ人なんですけど英語版のデスクがいて、彼が副編集長も兼ねている。それからもう一人、主に更新をやってるスタッフがいます。プログラムを書いたりとかではないんですけど、基本的に毎日更新する時は彼に全部やってもらってます。それからメールマガジンをつくるスタッフがいますが、彼の仕事はフルタイムじゃないので、4.2人。

岡部:英語版の費用が大変ですね。

小崎:そうですね。単純にいうと英語版に限らず、人件費が大変は大変です。

佐藤:その人数は、展覧会のレビューとかを書いたり、ライターの方も含めてですか?

小崎:寄稿家は内側と外側の両方います。だから、僕も村田も原稿書きますし、その他の2人も書きます。それ以外にどうしても手がまわらないところがあるんで、例えば専門の演劇ライターの方とかに書いて頂いてます。

佐藤:スタッフの内訳にデザインの方の名も載っていたんですけど、あれは外の方ですか?

小崎:小阪淳さんというアートディレクター。彼が最初に全部フォーマットを作ってくれて、今はすでにあるフォーマットの中にテキストと画像を貼りこんで作る形。トップページのバックグランドパターンを定期的に変えているんですけど、これは小阪さんのところにお願いしてます。

岡部:デザインが一貫していて、イメージが鮮明ですね。REALTOKYOを維持する為になさっている仕事は主に何が中心なんですか?

小崎:レギュラーでやっているウェブの仕事が2つあり、1つが「先見日記」(http://diary.nttdata.co.jp/)です。これは月曜から土曜まで、6人の寄稿家の方にコラムを書いて頂いているんです。月曜日が月刊アスキーの編集長の遠藤諭さん、火曜日が小説家の片岡義男さん、水曜日が女優の中嶋朋子さん、木曜日が評論家の港千尋さん、金曜日がル・モンド・ディプロマティーク日本版をやっている翻訳家の斉藤かぐみさんで、土曜日が漫画家のしりあがり寿さん(注:その後、日曜日に音楽家の坂本龍一さんが加わった)。これを僕らは編集、制作していて、NTTデータがそのサポートをしてくれているのでNTTデータからお金を頂戴して作ってます。もう1つは、文化庁メディア芸術プラザが、5、6年くらい前からアワードをやっていて、全受賞者のインタヴューをしようというお話があり、そのコンテンツ制作をREALTOKYOのチームで作ってます。あとはさっきお話した家庭画報国際版のウェブサイトの方に情報を提供しているのがご縁になり、今度10月に本格的な創刊号が出るんですが、この紙の方の文化情報ページの編集制作を僕らがやることになりました。

岡部:お忙しいですね。一つ一つ時間のかかるおもに編集の仕事だし、ご自分でも書いているわけですから。

小崎:まあ・・そうですね。貧乏暇なしってやつですね。

岡部:でも、資金は入ってきても他から頼まれてやっている仕事と、ご自分で立ち上げた仕事だと、自分でやりはじめたほうは、少しぐらい持ち出しでもしょうがないなあという感じはあるんですか?

小崎:何でしょうね。結果的にそういうことなんでしょうけど。僕はわりと仕事に恵まれてまして、今申し上げた仕事は全部好きなんです。ですから、そういう意味では等価っていう感じはします。ただ、REALTOKYOは僕自身もないといけない媒体だなって気がしてるんで、他の仕事が忙しくなってもきちんと続けては行きたいと思ってます。分かんないですけどね、どっかで息切れしちゃうかもしれないですけど。それ以外に紙の編集者だったので去年も一冊写真集を作ってます。本はこれからも作っていきたい。

佐藤:戦争について考えるというWASPの活動もやってらっしゃいますよね。

小崎:ええ。今度9月にWASPの公開選考イベントをやろうかと思ってます。本当はWASPのも作品が集まったら実際の展覧会やってみたいなとは思ってるんです。

08 編集者とキュレーター

小崎:多分岡部さんも感じてらっしゃると思うんですけど、編集と、キュレトリアルな仕事と、翻訳はみんな似てると思うんですよ。昔から翻訳家が編集者を兼ね、更にアートに関連してれば展覧会も作ることは多分20世紀のかなり頭の方から行われていたと思うんですね。特にこういうウェブみたいなものが発達してくると、どんどん増えていくと思う。多分僕の仕事もそういうところに位置づけられるんじゃないかな。

岡部:基本的に編集の概念はオールマイティー志向があり、ある意味では全てのものに対してのツールとしての働きがあり、メディアとしての働きもあるから、そうした意味では展覧会の企画も編集的な部分が強いといえます。編集から入られたので、展覧会も翻訳も可能となるけれど、逆にキュレーターからはじめた場合は、編集まですべてできるというオールマイティーにはいきにくのではないかしら。つまり、キュレーターの場合はある時代の美術史とか現代アートとか、自分の専門分野をまずかなりもってプロになるのにひかえ、編集の人は、一種の言語や知識のテクノロジーのプロみたいなところをもって入る気がする。文化芸術テクノロジーというほうがいいかな。それを持って対処すると比較的どこにも入っていきやすいし、その中で自分の位置を見つけやすい。そういう意味でキュレーター以上に、オールマイティーな気がします。もちろんインディペンデントをめざす今の若いキュレーターの人たちは、編集のオールマイティーの方向に近い。それで、最近は音楽とアートと演劇などの異なる領域にわたるところで、コラボレーションも出来るようになってきた。だから、今のキュレーターに求められているのは、何かをつないで別のものを創れる編集者タイプのキュレーターで、かつてはむしろあるこだわりと専門知識によって、無からコンセプトを創るといった理論家肌のキュレーターだったようにも思えます。

小崎:あ、そうですか。ただそうは言っても僕は美術展見る時はそのキュレーターの方がそれこそきちんとした美術史的知識を持ってないと信用出来ない気がしますけどね。実際それがないと偶然何か生まれることがあるかもしれないけど、意図したものとしてその展覧会の筋が通るか通らないかというと、通らないんじゃないか気がします。

岡部:現在、芸術文化のNPOが増えてきたりしているポジティブな面もありますが、美術館や現代美術を含めて、全体的な状況についてはどうお考えでしょうか。若い人達がこれから仕事をしていく上でどんな展望があるかという点ですが。

小崎:先ほど岡部さんがおっしゃったことはかなりその問題のポイントになっているんじゃないかと思うんです。つまり専門性の否定みたいなことが時代のキーワードになっていて、つまらないものが多いと思うんですよ。世代が違うから新しいものを理解出来ないのとは違う。どんな時代にも必ずつまんないものは出てきた。それも必ずそういう時には、今までの時代にはなかった新しい衣装を上にかぶせて出てくる。でも、本当はそれを新しいと思って出した人の勉強不足にしか過ぎない。昔から陳腐なものってあった。ここを勘違いするとつまらないものしか生まれない。それはちょっと悲しい。そんなこと言ったってそういうのは生まれてくるので、言っても仕方がないことかもしれませんけど。その勘違いは結構優秀な人でもやっちゃう。だから単純に友達をつくるだけでもいいから、いろんな知識を媒体できるシステムを自分のまわりに作るといいと思うんですよ。さっき、編集オールマイティーっておっしゃってたけど全然そんなことなくて、ある意味でスペシャリストに比べればジェネラルかもしれないですけど、編集者がたまたまキュレーターの方よりももう少し横に広がった仕事が出来るのは、周りに人がいるからなんです。

岡部:それぞれ優秀な専門家をまわりに置いておける。スタッフとしてともにコラボレーションできるということですよね。キュレーターもとくに最近は、どれだけ有効なネットワークをもっているかになってきてますが。

小崎:よく、自分を育ててくれた先輩から編集者の財産は人脈だって言われた。当たり前なことですけど、本当に1人じゃ何も出来ない。WASPプロジェクトも、たまたまデザイナーや作家やアーティストたちの知り合いがいて、彼らが面白いねって協力してくれたから出来た。

岡部:そうですね。でも人脈を作れるのもやはり実力ですから。

小崎:まあ、そうかもしれないですね。

09 紙は足し算デジタルは掛け算

小崎:1人の人間の才能にはすごく限りがある。天才はいろんなことが出来ますけど、天才じゃないほとんどの人は効果的なネットワークで仕事をするのが一番いい。僕は今、紙の編集やるよりもデジタルの仕事の方がはるかに面白い。なんでかって言うとエンジニアがいっぱいいるわけですよ。普通に出版社で本をつくっているとまず関わる人数が非常に少ない。書き手と、ヴィジュアルな本で例えば写真家とディレクターぐらい。ところがデジタルだと、プログラマーがすでに何人かいたりする。フラッシュづかいのものすごく巧みな人とか。そうすると、紙媒体が紙が足し算だとするとウェブやデジタルは掛け算みたい。

岡部:なるほど、その例えが面白いですね。

小崎:それは、こういう時代だからこそ初めて出来たことだと思う。今、横断的なイベントが多いのも、みんながその掛け算的面白さに気が付いているからですよ。だけどその中でもきちんと作らないと、本当に散漫なものになりかねないから難しい。

岡部:そういった場合のクオリティー評価を、だれがどこでどう判断できるようになるのかといった問題もありますね。デジタル、ウェッブ上での美術館の関わりはどうですか。今はみんなホームページとかもってて自分たちでも作ってるけれども。

小崎:今、ウェブ上のミュージアムには3つあると思うんです。1つは既存のリアルな美術館の持っている情報としてのウェブサイト。もう1つは都築響一君がやっているインターネット・ミュージアム・オヴ・アート。都築君の場合非常に明快で、メディアアートとかをやるつもりはないといっている。結果的にメディアアートになってもいいけれども、展覧会もして、ちゃんとウェブ上に作品を収蔵したい。もう1つそれと違うのが、たとえば四方幸子さんたちがCyGnet(http://www.shiseido.co.jp/cygnet/)でやったような、本当にウェッブでなければ出来ないウェブアートミュージアム。その3種類があって、都築君がやってるようなことは、お金取ってやろうとすると一番難しい。

岡部:本当に、都築響一さん、アクセスあまりしてくれないって言ってました。

小崎:若いファンが多くて、クレジットカード持ってないからだって。それに、美術館は情報機能をちゃんとやるべきですよ。まず英文情報をきちんと載せているサイトがあまりに少なすぎる。

岡部:そうですね。

佐藤:最後にREALTOKYOの今後の活動展開についてお聞きしたいなと思います。

小崎:1つは何らかの形でREALTOKYOの紙版が出来るかもしれない。それを検討したいです。それから、さっきも申し上げたREALTOKYO BAR みたいなリアルなイベントもやってみたい。『Invitation』をやってる菅付君と話してたら、彼が今後の編集はもう「情報コンシェルジュ」にすべきだみたいなことを言ってました。要するに、いろんな情報が溢れ過ぎてるからそれぞれのユーザーの要望に応じて、こういうのが好きだったらこれはどうですかといった形で、オンデマンドで何かものを送る仕組み。それは特にウェブだとあり得ると思います。今の技術でも相当出来ると思うんですよ。

岡部&佐藤:長い間、貴重なお話を有難うございました。

(テープ起こし担当:佐藤美保)


↑トップへ戻る