マクドナルドの巨大なMが光っている。瀬戸内海の直島で開催された「スタンダード」展のハイライト。2001年9-12月に直島コンテンポラリーアートミュージアム開館10周年を記念して開かれた展覧会だった。かつて牛小屋だった場所に設置された中村政人のマクドナルドのサインは、米国の牛肉産業のトップ巨大企業へのユーモアと、今後もおそらくマクドナルドのショプなど誕生することもないだろう人口3700人の静かな島における夢舞台の実現であった。インタヴューでも語られているように、ヴェネチア・ビエンナーレの日本館にも、その夏、Mの輪が掲げられた。
中村政人氏はコマンドNの首謀者で、秋葉原を一躍アートの舞台に引っぱり出した張本人だ。地域や社会をカンヴァスとする辣腕の具象作家で、アート・コミュニティのネットワーク作りに早くからコミットしているアートのプログラマーともいえるパイオニアである。中村氏の美術と社会にかかわる制度論は、作品の創作活動以外に、1994年に上梓したインタヴュー集『レンタル・ギャラリー』、『美術と教育 1997』、『美術の教育 1999』といった一連の出版活動を通して、視覚芸術の裏舞台を人の話法を組み立てながら露出させる独特な方法論として展開している。そこには、ヨーゼフ・ボイスやハンス・ハーケなどとも異なる社会参加への突破口を、アジアという舞台で試行する正攻法の戦略が伺える。
韓国留学経験のある中村氏が、ずいぶん昔、グループ展で派手な「トコヤマーク」を出品したのを見かけた。異質な場所に展示されてどこか滑稽味を醸し出していた広告塔は懐かしくもあり、赤と青の無限のスパイラルを描き続けるその必死な姿に見とれた。資生堂ギャラリーの「life/art」展でも、銀座のスキマに再登場、「トコヤマーク」は中村氏のライフワークのシンボルのように思える。
2003年秋、湯島に新たなアーティストイニシャティヴの拠点を作る。美術教育の核心、東京芸大の助教授となった今、スクリュウのように、さらなる制度への追撃が期待される。
(岡部あおみ)
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