頭は使いよう。『パリの護美』は大きな国益
小谷育弘
1991年から15年間、ヨーロッパ文化の細部を知ろうとパリに毎年50日ほど生活してみた。その期間に風のコレクションのためフランス中心に車でヨーロッパ諸国の街や村、約350をまわった。その折々に、各地のゴミ処理のデザインに関心が生じた。隠蔽されがちなゴミ問題は、その地域の民度・文化度をリアルに表出していて大変興味深い。結局、パリのゴミ清掃プロジェクトが一番優れていることを知り、15年間も取材するようになった。
19世紀の中頃までパリの街にはトイレもなく、集合住宅の上の階の住民は窓から汚物を投げ捨てる者もいて、雨でも降ると下水が施設されていない道路は、降ってくる排泄物や泥まみれの生ゴミから発するものすごい悪臭に歩くことさえ困難だった。ついに、伝染病によって多数の死者が出るに至り、1850年ナポレオン3世の命を受けたセーヌ県知事オスマンによるパリ大改造計画が開始された。そして1870年にほぼ完成し、現在の美しいパリに生まれ変わった。
実は、今の清潔なパリの市民生活を創り出したのは、フランソア・オザンヌ氏の大きな貢献による。彼が1979年に初代の衛生管理局ディレクターに任命されてから、ゴミ清掃のグリーンプロジェクト「Proprete de Paris」(パリをきれいに)は活動を開始した。まず、革新的な組織編成、用具の近代化、清掃作業員の価値の引き上げによって構造を一変させた。
次に「Proprete de Paris」のロゴマークのデザインを行うと同時に、清掃員のユニフォームからゴミ箱、収集用トラックまで全ての用具をシックなグリーンで統一した。そして、昼夜を問わず活動するグリーンプロジェクトの清掃作業を通じ、市民が理解しやすい視覚的なデザインでコミュニケーションを行なった結果、パリ市民の清潔に対する意識を高めることに成功した。
フランスは観光立国である。世界中から年間約7600万人もの観光客がやってきて、日本円にして約3兆7000億円もの観光収入を得ている。その中心基地になるのがパリ市のシャンゼリゼ大通りである。凱旋門からコンコルド広場までの通りは全長2キロ、道幅70メートルもあって、三車線程ある広い歩道は、連日観光客であふれている。この世界ブランドの空間を活用するために、ゴミ清掃・グリーンプロジェクトは他の区とは全く違う戦略的なマネジメントを行っている。
先ず、ここで清掃作業を担当する者は、若くてカッコイイ男女である。次に、使用する用具類は小型でスマートな最新のデザインである。この有名なステージで彼や彼女たちが演じるゴミ清掃のパフォーマンスは、明るくオシャレに演出され、パリ、引いてはフランスの芸術・文化的イメージをいつの間にか世界中の観光客にインプットしてしまう。この実績によって、景観創出の一環でもあるゴミ清掃のグリーンプロジェクトは、計り知れないほど多大な国家利益をもたらすことになる。
フランス観光局から提供される印刷物には『生きることを楽しむ国』というキャッチフレーズが書かれている。これこそが国民の価値観、人生観であり、美しい景観形成やゴミ収集に協力的な生活意識の根源なのである。
ところで、短命だった『美しい日本』。あのキャッチフレーズは江戸時代の人による白昼夢の呟きだったのだろうか。
小谷育弘/芸術文化学科
プロフィール
こたに・やすひろ
クリエイター
1982年9月20日着任
1937年大阪府生まれ
武蔵野美術学校卒業
専門分野:ヴィジュアルコミュニケーション
作品:壁掛けTV鑑賞絵画の個展=CD/1部、2部、3部(各50点入り)
京橋画廊(00年)の個展は新日曜美術館アートシーンにて放送
著書:「パリの護美」自費出版
展覧会:東京セントラル絵画館(東京)、蔵丘洞画廊(京都)、ギャラリ・ディンプロス(パリ)、サクラミュージアム(大阪)他にて個展10回、グループ展20回
受賞:日宣美特選、準朝日広告賞、毎日デザイン広告賞・部門賞、日経広告賞、ADC特別技術賞など33回


