武蔵野美術大学 芸術文化学科

授業記録

芸術文化特論 Vol.5 伊東正伸氏
国際展の現状と未来

ブリティッシュ・カウンシルJapan 勤務後、1990年、グラスゴー大学美術史学部装飾芸術コースディプロマ課程に留学。翌年ディプロマ取得。1993年より国際交流基金(The Japan Foundation)に勤務。現在は、文化交流に関するさまざまな情報の提供、各種コンサルテーションを行っている。また、文化交流政策、文化政策(特に、「芸術と社会」)、文化による都市再生など多岐の分野にわたり、調査研究を行うとともに、シンポジウムやセミナーの企画運営に携わる。シンポジウム、学会、研究会での発表多数。
専門分野:文化交流政策、文化政策、アート・マネージメント

市民とアートをつなげよう

 ヨーロッパでは、90年代以降、人々の間でクリエイティブの大切さが叫ばれ始めた。この考えにいたる以前、70年代には「文化や芸術は一般の人達も楽しむものだ。」と価値観の変化が起きていた。 80年代には「美術館だけではなく、街中にもアートが溢れ、市民とアートの距離が近くなるべき。」という考えからソーシャルアートが台頭した。
 この潮流を促進した一つの都市があった。スコットランドにあるグラスゴー市である。菅野さんはこの街に留学されていた。グラスゴー市はイギリスにある産業都市だが、70年代ころまでは犯罪が多く、荒廃し、文化とは無縁の都市として有名であった。 そんな都市であるグラスゴーがアートの力を借りて荒廃した都市を蘇らせようとしたのである。アートによる地域再生だ。1990年には「 European city of culture 」に選ばれた。 これをきっかけに芸術の街として発展を遂げて行き、美術館、会議場、劇場、音楽ホールなどを建築し、アートをはじめさまざまなイベントも開催され、地域にアートを根付かせようと奮闘した。 この努力は実り、現在ではグラスゴーといえば、コンテンポラリーアーティストが多数住む街として有名になった。このグラスゴーの成功により、アートによる地域再生ヨーロッパの諸都市から注目され始めた。

アートが都市の未来を切り開く

このグラスゴーの様な都市は、現在、Creative Cityと呼ばれている。Creative Cityとは、
1. アートによって生活の質を高め、多様性を認め合い、地域や市民の創造性と潜在的な能力を引き出す。
2. 独自の文化・芸術を育て、革新的な経済基盤を持つ。
3. 個性のある、魅力的な都市、刺激と出会い、交流が生まれ、そこから創造が生まれる街。
4. Creative Industry,Creative Economyなどの経済的な循環を生み出す、都市を指す。

グラスゴーにおけるアートによる地域再生の成功で、世界各国の都市や地域がこの活動に興味を持ち始めた。またこの活動に拍車を掛けたのが、チャールズ・ランドリーが2000年に著した『創造都市』である。
この様な都市を目指そうと、EU諸国では、ビルバオ市、バルセロナ市、ルール地方、バーミンガム市、マンチェスター市、ナント市など、日本では横浜市、豊島区、金沢市、福岡市などが同様な活動を始めている。
では、Creative Cityとなる為にはどうすれば良いのか?
1. 都市問題を解決する為の創造的環境があること。
2. アートを創作する過程に生み出されるようなダイナミズムとパワーがあること。その「創造的パワー」を活用し、その社会の潜在力を引き出すこと。
3. 創造の場があること。
4. 新しいアイデンティティを作り出すこと。その際、その地域の過去の記憶や伝統のインタラクティブな関係があること。こういった条件を満たしている必要がある。
 各市や地域はこの条件を満たそうと動いている。 例えば、国内では、横浜市が横浜トリエンナーレというアートのイベントを開催したり、ZAIMという元横浜関東財務局の建物をアーティストやアートNPOに開放したり、「BankART1926」の運営支援などを行っている。 この「BankART1926」は、非営利団体(NPO)が運営する文化施設である。東京藝術大学大学院映像研究科の開設もこの構想の一環である。 豊島区では、元小学校でシアター系のNPOが活動を始めた。金沢市では、工場跡を市民芸術村という文化施設に改修し、市民が24時間市民が利用可能なものとした。 福岡市ではミュージアム・シティ・プロジェクトが活発な活動を行っている。神戸市では、デザインをメインとし、またCAP(芸術家と地域と計画会議)への活動支援を行っている。
 2005年には、「EU日本創造都市交流プロジェクト」を横浜市、ブリティッシュカウンシル東京をはじめとする6カ国の在京文化機関、そして国際交流基金が共同で実施した。 このプロジェクトには、札幌市とS-AIR(札幌で作品を造ってもらい、海外などからアーティストを呼んで宿泊したりしてもらおうとしているNPO)、弘前市とharappa(奈良良智の作品を市民と展示という活動をしているNPO)、 京都市とアートNPOリンク、大阪府とremoなどNPOと地方自治体が組んで、EU六カ国へ調査、交流しに行ったり、EUの関係者を招いて日本各地でワークショップを開催したり、赤レンガ倉庫で「アートが都市社会の新しい地平を切り拓く」と題したシンポジウムを開催した。 そして、この成果を『アート戦略都市』という単行本にまとめた。
授業風景
 外国における活動では、例えばフランスのナント市である。ここの市は市長が積極的に取り組んでいる。 そして元工場などで文化的なイベントを行うことによって、ナント市民が未知の場所へ足を踏み入れる機会を設け、大道芸もアートと認め、市長は、ストリートパフォーマンスのグループ「ロワイヤル・ド・リュクス劇団」を誘致し、彼らのアイディアを取り入れたパフォーマンス、展覧会などを積極的に支援している。 その結果、この市長の試みは大成功を収めたのである。その他の国においては、イギリスのニューカッスル・ゲーツヘッドの事例、アイルランドのBreaking Groundの事例、フィンランドのFiskarsVillageの事例(この活動はアーティストビレッジの理想郷と言われている。)またドイツルール地方のZollvereinが挙げられる。
 国際交流基金は、文化芸術交流、日本語教育、日本研究、知的交流を通して、世界の人々 との相互理解を深めていく機関である。 世界の国々との文化的交流を通じて、日本の歴史や文化を再発見することで、都市の活性化に役立てていく活動の支援も行っている。 その中のテーマのひとつとしての「創造都市」というとりくみがあり、街を活性化させ、その国が持つ伝統や文化をもう一度、現代社会に根付かせていく試みでもある。
 世界各都市、各地域でこの活動は、現在、活発に行われている。個人や社会の個性、能力、魅力を引き出せる力を生み出し、文化力、創造力を生み出そうとしている。この文化力、創造力は21世紀に求められる大切な力である。 アートによって地域復興し、文化力、想像力を生み出す街、その力を持った人の輩出を目指し、創造都市の戦略は行われている。 創造都市戦略とは文化と都市政策を短絡的に結びけたビジネスではなく、人々 がより豊かに暮らせる様にと始められた都市戦略なのである。
(担当・文:金子桂太郎/森田千咲子/吉川久美子)
(2006年6月13日)